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「若手が流出しない会社」と「逃げられる会社」の違いを生む“社員エンゲージメント”の高め方

2020年11月17日 公開

柴田彰(コーン・フェリー・ジャパン シニアクライアントパートナー コンサルティング部門責任者)

 

自社の存在意義を部下に語れるように整理

しかし、日本の管理職研修では業務管理のスキルを重視してきたため、ほとんどの管理職は部下に仕事や自社に所属する意味を語る訓練を受けていません。

長らく率先垂範が好まれてきたため、いまだに「上司が仕事をする姿を見せれば、部下は勝手に学んでくれる」と考えている管理職も少なくありません。

そこで、中間管理職の皆さんに、社員エンゲージメントを高めるための第一歩として実践していただきたいことが二つあります。

一つは、自分の会社や組織の存在意義を明快かつ簡潔に語れるように整理することです。

私も様々な企業の管理職にインタビューをする機会がありますが、自分たちの存在意義をシャープに語れる人はほとんどいません。業務のことならいくらでも話せるのに、仕事を「目的」や「価値」の視点から整理できている管理職は非常に少ないのです。

自分たちの会社や部署、チームは、何のために存在しているのか。自分たちにとって顧客とは誰か。その顧客に対してどんな価値を提供しているのか。それを一度頭の中で整理し、人に話せるようにすることが非常に大事です。

もう一つは、部下一人ひとりの「動機のレバー」を把握できているかを振り返ってみること。これは「ここを押せばモチベーションが上がる」というスイッチのようなもので、人によってレバーの種類が違います。

これまでの日本企業は同質性の高い集団だったので、やる気を高めるスイッチは共通だと思い込んでいた節があります。営業組織の管理職が「焼肉をおごれば部下は誰でもやる気を出す」と思っているケースは、典型的な例です。

若手の価値観は多様化しています。もともと人間は十人十色で、モチベーションの源泉が人それぞれ違うのは当たり前です。部下が10人いたら10通りの動機のレバーがある。それを把握できているかを振り返り、できていなかったら、すぐに部下の観察と情報収集を始めましょう。

動機のレバーのありかを探るには、「モチベーション」と「価値観」の二つの切り口から理解を深める方法がお勧めです。

モチベーションは人間が本来持っている動機で、自然な状態で、素直に「楽しい」とか「好きだ」と思えるものです。一方、価値観はより理性的で、「人の役に立つべきである」「必ず業務目標を達成すべきである」といった、「あるべき姿」を指します。

皆さんが部下の動機のレバーを探すときも、その部下が「好きなことや求めていること」と、「仕事をするうえで大事にしていること」の両方に着目すると、一人の人間を多層的に捉えられます。

 

オンライン環境に適したマネジメントに変えよう

部下の好きなことや大事なことを知るには、本人とのコミュニケーションが不可欠です。

しかし、ここ10年ほどは、組織のフラット化やプレイングマネジャーの増加によって管理職の負担が大きくなり、部下とのコミュニケーション量がかなり減っています。

そこへコロナ禍が発生してリモートワークが拡大し、組織内コミュニケーションのさらなる希薄化が懸念される状況になりました。

これからは、部下とのコミュニケーションを含めたマネジメントそのものを、オンライン環境に適した形に変えていく必要があります。具体的には、「業務の進捗管理」から「目的や価値ベースのマネジメント」へ切り替えることが求められます。

業務管理をしている限り、部下とは「何をいつまでにやるか」を確認する会話だけで終わってしまいます。

部下に仕事を任せるときの会話を、「この仕事の目的は何か」「この仕事で出せる価値は何か」をベースとしたものに変えていかないと、部下をモチベートするのは難しくなるでしょう。

「キャリア目標達成の見込み」が社員エンゲージメントに影響する大きな要因である以上、キャリア開発や能力開発の指導も管理職の大事な役目となりますが、こちらも昔ながらのやり方を変えることが求められます。

これまで、管理職による人材育成は、部下に目の前の仕事をこなしてもらうためのノウハウの伝授が中心でした。

しかし、現在求められているのは、部下が中長期的に目指すキャリアの方向性を理解し、そのために何をすればいいかをアドバイスできることです。

そのためには、まず一人ひとりの部下が思い描くキャリアについて、話を聞くことが必要です。

若手のキャリア開発に問題意識を持つ日本企業が、「成長対話」を始めた事例があります。これは、上司と部下が向き合い、「将来、君はどうなりたいの?」と問いを投げかけて率直に語り合う場を設ける取り組みで、それを週次で繰り返しました。

最初のうちは、あらかじめ用意した話題を話していた部下たちも、毎週となると話すことがなくなり、本音を言わざるを得なくなります。

それが功を奏し、管理職側から「部下の意外な面が色々と見えてきた」という反応が上がっているということです。

素朴な取り組みですが、キャリア開発に向けた最初の一歩として効果が大きいので、皆さんの職場でも取り入れてみてはいかがでしょうか。

コロナ禍で働き方が変わり、今まで通りの仕事のやり方ではうまくいかないと感じている管理職は多いでしょう。

これを自分のマネジメントスタイルを見直す良い機会と捉えて、ぜひ、社員エンゲージメントの向上につなげてもらいたいと思います。

 

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