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デジタルグリッド「買い手にとって安く、売り手にとって高い再エネを実現」

2021年02月07日 公開
2022年10月20日 更新

【経営トップに聞く 第44回】豊田祐介(デジタルグリッド社長)

電力会社の業務をデジタル化

デジタルグリッド

――本来、太陽光発電の電気は火力発電の電気と同じくらいの価格で販売できるけれども、電力会社を通すと高くなるわけですね。

【豊田】この問題を解決するため、当社は、電力会社が行なっている業務をデジタル化することで、発電企業が需要企業に直接、P2P(相対)で電気を販売できるようにしました。それが、2020年2月にローンチした「デジタルグリッドプラットフォーム(DGP)」です。直接販売すると、発電企業は高く電気を売れるし、需要企業は安く電気を買えるわけです。

現在(取材時)までに、56社に事業パートナーとして出資していただいています。

――電力会社が行なっている業務をデジタル化したというのは、先ほどの需給管理のこと?

【豊田】契約管理から料金計算まで様々な業務がありますが、特に重要なのは需給管理ですね。

少し詳しく説明すると、需要企業の事業所ごとに、AIが「店舗なのか」「オフィスなのか」といった情報と電力データを学習し、そのうえで電力取引システムにアクセスして、あらかじめ決められたロジックによって自動で電気を購入します。

どこから調達した電気をどれだけ使ったのか、30分ごとのデータをOCCTO(電力広域的運営推進機関)という国の機関に報告しなければならないのですが、それも自動で行ないます。

発電側についても、例えば太陽光発電だと時刻や天気によって出力が変化するので、それをAIが予測しています。曇りだと正確に予測するのが難しいのですが、十分に実用に耐える精度が出ています。

DGP上の取引で余ったり足りなかったりした電気は、JEPX(日本卸電力取引所)で売ったり買ったりしています。

――創業からDGPのローンチまで、時間がかかっていますね。

【豊田】技術的な検証を環境省のプロジェクトの中で行なったり、発電企業と需要企業が直接契約することが電気事業法で認められているのか、資源エネルギー庁と一緒に法的な整理をしたりするのに、2年半ほどかかりました。

――ユーザーには、どんな企業があるのですか?

【豊田】ローンチから約1年が経って、株主になっていただいている大企業を中心に、23社(取材時)に活用していただいています。

需要企業には、まず、自社で再エネを使いたい企業があります。

ひと口に「再エネを使いたい」と言っても、どの法律や制度に準拠するのかなど、目的によってやり方が違ってくるので、それぞれの企業の目的を明確にし、それに適した電気の買い方を提案する、コンサルティング営業をしています。

また、買った電気を自社で使うのではなく、売りたい企業もあります。

例えば住友林業〔株〕は、グループで木材を使ったバイオマス発電をしていて、その電気を、住宅を購入した顧客に販売するために、DGPを使っています。

発電企業には、再エネの発電企業の他、火力発電を行なう発電会社もあります。再エネと、その他の電気を組み合わせて、需要企業に使っていただくためです。

DGPを使うと、プロしか参加できないJEPXにもアクセスできますから、発電企業から直接電気を買い、足りない分をJEPXから買うという、オーダーメイド型の電力調達もできます。

これは、2020年11月にソニーグループが日本で初めて始めました。こうすることで、電気代が従来よりも安くなります。

京セラ〔株〕は、自社の建物の屋根の上に太陽光パネルを置くだけでは足りないので、その不足分を離れた場所で発電し、その電気を、DGPを通じて、自社で売って自社で買うという使い方をされています。

――色々な使い方ができるんですね。

【豊田】需要企業の過去の30分ごとの電力データを見せていただいて、「この部分は火力発電にしましょう」「再エネはここに使いましょう」「足りない分はJEPXから買ってはいかがでしょうか」というように、企業ごとに最適な、長期的な計画を提案しています。

どの発電企業から電気を買うかは、合い見積もりを取っていただいて、需要企業に決めていただいています。プロの発電企業の間でも、それぞれに得意なことが違っていて、時間帯などによって価格が変わってくるからです。

――DGPを使うと、どのくらい電気代が安くなるのでしょうか?

【豊田】1つの事例ですが、19円/kWhの電気を毎年2億円ほど買っていた関東地方のある企業は、火力発電とJEPXからの調達を組み合わせる形に変えて、32%も電気代を下げました。そこから再エネに切り替えていき、100%再エネにしても15円/kWhと、もとよりも安くなっています。

 

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