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「これ、うまくやっといて」抽象的な指示しか出さない上司の罪深さ



2021年03月10日 公開

真子就有(div代表取締役)、細谷功(ビジネスコンサルタント/著述家)

 

世の大半は「具体側」。具体化せねば伝わらない

【真子】とはいえ、もともと僕は抽象側の人間なので、「人の話を長く聞けない病」であることは自覚しています。社員たちが何か報告してきても、「はいはい、要は◯◯ってことでしょ」と話をまとめてしまう。

自分は本質的なことがわかれば満足するのですが、部下は具体的な細部まで説明しなければいけないと考えるので、僕からするとどうしても冗長に感じてしまう。この「抽象側」と「具体側」の差が面白いな、と。

【細谷】でも、真子さんは具体化もうまいですよね。私の本を紹介してくれた動画でも、視聴者が理解しやすいように、様々な喩え話を出していました。「喩え」とは、個別の事象をいったん抽象化することで法則やルールを見出し、再び具体化したものです。

しかも真子さんは、一つの物事について、様々な角度から、「これでもか、これでもか」と畳みかけるように喩える。

これだけの質と数の具体例を出せるのは、やはりビジネスの現場で「抽象的でわかりにくいことを、具体的にわかりやすく説明する」という経験を積み重ねてきたからでしょう。

【真子】おそらく、世の中の大半は、具体側の人だと思うんです。だから、具体化して伝えなければ理解されない。若い視聴者にもイメージしやすいように、ビジネスの話をポケモンや遊戯王で喩えることもあります。

僕が幸運だったのは、プログラミング教育事業で起業したこと。プログラミングは抽象と具体を行き来する作業なので、これをどうすれば受講生にわかりやすく伝えられるか、常に考え続けてきました。

例えば、初心者に「オブジェクト」と言っても、抽象的すぎて概念を理解できないので、まずはクルマに喩えてみる。それでも相手がわからなければ、今度は鯛焼きに喩えてみる。

手を変え、品を変え、理解してもらえるまで、あらゆる具体例を提示してきました。この経験が、抽象と具体を行き来するトレーニングになったのだと思います。

【細谷】抽象の世界を知ったうえで、具体の世界に降りていける人は、少ないんですよ。真子さんがおっしゃったように、1度でも抽象の世界が見えてしまった人からすれば、具体的な話は冗長で、むしろわかりにくい。

学者だったら抽象の世界だけで話していればいいのでしょうが、実務家はそうはいきません。抽象度が上がるほど理解できる人数が少なくなるので、より多くの人にわかってもらうには、具体化の能力が必須になる。

それをプログラミングスクールの運営やYouTubeで実践しているのは、素晴らしいことです。

【真子】いや、僕は「思考とは、抽象と具体を行き来することである」という定義に行き着いた細谷さんがすごいと思います。いつ頃から、このことを意識されていたんですか?

【細谷】コンサルティングの経験が気づきのきっかけですね。コンサルタントの付加価値は、目の前のクライアントが抱える個別の課題に対し、別の業界や企業の事例から類似点を見出して、その解決策を応用できるかどうかにかかっています。

この「類推」、つまりアナロジーは、具体的な事象を抽象化して、他の事象との共通点を見つける作業です。だから私も、自然と、抽象と具体を行き来するトレーニングを積んでいたことになります。

 

思考の演習問題は街中に転がっている

【真子】僕が痛感しているのは、「抽象具体」の能力を養うには、時間がかかるということ。細谷さんの本を読めば、「抽象化と具体化が大事なんだな」ということは誰にでもわかる。でも、それを実際に仕事や生活で使えるようになるには、鍛錬が必要です。

プロサッカー選手のスーパープレーを見ただけで、自分も同じプレーをできるかと言えば、ムリでしょう。それと同じで、実践でトレーニングを積むことが不可欠です。

【細谷】本のタイトルに「トレーニング」と入れた狙いも、そこにあります。

本書では「『自動車の座席』と『年末に配られるカレンダー』の共通点は?」「『他人にレッテルを貼る』とはどういうことか、具体と抽象の観点から考えてください」といった演習問題を随所に挟んでいますが、これも、読者に自分の頭で考えてもらいたいからです。

【真子】僕も部下に自分で考えさせるように努力していますが、これがなかなか難しい。

例えば、ホームページや販促物のデザインについて、部下にフィードバックをするとします。抽象的に考えれば、デザインの基本原則は「近接」「整列」「反復」「コントラスト」の四つです。

だから、「これは近接の法則に反するよね?」と伝えると、部下は「わかりました。次は気をつけます」と答えるのですが、次に出してきたデザインも、また近接の法則に反している。

上司として口にしてはいけないフレーズだとわかりつつ、心の中で「前も言ったよね」とつぶやくことがよくあります。

そこで、グッと我慢して、「もう1度、近接の法則を説明するね」と言って、また次の日にデザインを提案させる。これを10回、20回と繰り返すことで、やっとできるようになるんです。

僕はこれを「面倒だな」ではなく、「人間の違いって面白いな」と感じるのですが、それくらい鍛錬が必要だということです。

【細谷】さらに言うと、私の本では、演習問題に対する正解は載せていません。なぜなら、試験問題と違い、私たちが仕事や生活において直面する問題には、絶対的な正解などないからです。

【真子】ウィズコロナの今は、街中に演習問題がたくさん転がっています。

「なぜあの人はマスクをしていないのだろう?」「皆が自粛しているのに、なぜあの人は飲み歩いているんだろう?」といった問題を深掘り、「法律で規制できないのか?」「他の国はどうしているのか?」と考えてみるといいですね。

しかも、このトレーニングをすると、心が穏やかになります。相手と同じ具体の世界にいると「細かいことまで注意してやるか」というような発想になりますが、「なぜだろう?」「どうすれば変えられるだろう?」と抽象度を上げて考えれば、その人を怒る気になりません。

【細谷】自分と相手の立ち位置がわからないままだとモヤモヤしますが、「自分と相手がいる場所は違うのだ」とわかれば、確かに、気持ちが落ち着きます。

 



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