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パソナ東北創生「釜石の企業と外部人材をマッチングし、地域の産業を伸ばす」

2021年03月07日 公開
2022年10月14日 更新

【経営トップに聞く 第45回】戸塚絵梨子(パソナ東北創生社長)

パソナ東北創生

オンライン副業で経験やスキルを活かし、地域の産業に貢献

――釜石に移住して働きたいという人は、どういう人なのでしょう?

【戸塚】自分がやりたいことに挑戦できる環境を探している方が多い印象です。

 2016年度からは、移住×地域での事業創造を目指す「釜石ローカルベンチャー」という取り組みを釜石市と実施しています。総務省の「地域おこし協力隊」という制度を活用し、釜石市独自の取り組みとして、メンターをつけたり、講師を呼んだ勉強会や合宿を行なったりと、地域の金融機関や商工会議所、産業育成センターと連携したサポートをしています。

 当社が創業した2015年は、復興・復旧のためのボランティアや自治体に応援に入っていた方々が撤退し始めるような時期でした。当社が釜石市と一緒に呼び込んでいるのも、復興・復旧のための支援者というよりも、地域の課題を解決したり、ポテンシャルを活かしたりすることで、事業を興そうという方々です。

 これまでに12名の方々が釜石に移住して、古民家を改修してゲストハウスにしたり、カフェを始めたり、地域で1次産業をされている方の商品のブランディングやプロモーションをしたりしています。森林組合と組んで、木材を使った環境に優しい商品の開発をされている方もいます。

 ここ2~3年は、移住はしないけれども、地域の企業のブランディングやウェブマーケティング、ECサイトの立ち上げ、SNSの運用などを複業で行なう人材のマッチングに力を入れています。

 大企業の副業解禁の流れがある中で、コロナ禍で本業に使う時間が減った方もいて、2020年はオンラインでの複業がぐんと増えました。1つの案件に対して、1~2週間で15名ほどのエントリーがあり、泣く泣くお断りをすることもあるほどです。

――オンラインでの副業にエントリーするのは、どんな人たちなのでしょうか?

【戸塚】多いのは、30~50代の男性です。具体的なプロジェクトについて求人を出しているので、これまでに培ってきた経験やスキルがそれに活かせるかどうかが判断しやすいからかもしれません。

 プロジェクトにはチームで取り組むので、その中にビジネスの経験が豊富な方がいると安心感がありますね。自然と若者のメンターのようになっていることもあります。

――御社の事業に対して、釜石の人たちの反応は?

【戸塚】釜石は新日鉄(現・日本製鉄〔株〕)の企業城下町で、地域内外の色々な人たちが行き交うことで発展してきましたし、たびたび災害に見舞われて、その度に復興してきたという歴史もあり、変化に対してオープンな気質です。東日本大震災でも、数多くのボランティアや出向者を受け入れていて、外部人材が出入りすることに慣れているように感じます。他所者に対する拒否反応が強い地域もあると聞きますが、釜石はその点でのハードルが低いんです。

 また、釜石は近くに大学がないので、インターンで大学生が町の中にいるということにもとても好意的です。。

 例えば、〔株〕浜千鳥という酒造会社は、インターン生のアイデアで、地元のレストランとコラボし、洋食と日本酒のペアリングに取り組みました。自分たちにはなかった発想だと、すごく喜んでくれました。

 浜千鳥には、2021年2~3月のインターンにも参加していただいています。コロナ禍に対応してオンラインで行なっているのですが、オンラインでの顧客との関係の紡ぎ方をミッションに、例えば酒蔵ツーリズムや杜氏によるオンライン講座など、インターン生がアイデアを出しながら実行に移し、検証して、来年度の施策につなげることを目指しています。

 研修ツーリズムの受け入れを依頼しに行って、「平日は忙しいからできない」「休日に対応するなら、そのコストはどうするのか」という話になったこともあるのですが、インターン事業では企業側から「次は何をやろうか」「こういう企画はどうだろう」と逆に提案いただけるようなことも少なくなく、とても嬉しいです。

 研修ツーリズムやインターン、ローカルベンチャー、複業などの事業を通して外部人材にポジティブなイメージを持っていただいている企業も増えてきたことで、オンラインでの複業人材のマッチングも積極的に受け入れていただけました。私たちが声をかけた件数よりも、経営者同士で情報が伝わって、企業側からお声がけをいただいた件数のほうが多いですね。

――オンラインでの複業では、具体的にどんな事例が生まれているのでしょうか?

【戸塚】〔有〕小島製菓という、今は3代目が経営している老舗の企業が、「子どもの偏食」に悩む子育て家庭を「お菓子」で助けたい、という思いで、野菜や果物の粉末を練り込んだお菓子をD2Cで販売するのですが、その企画や事業計画作りを、都内にいる方が複業で担当されています。2月に第1弾が販売される予定です(取材時)。

 クラウドファンディングを実施したり、noteで社長の思いを発信したりもしていて、その記事の作成を、地域の主婦の方が在宅で行なっていました。

 外部人材の活用と言うと「地域の仕事や雇用を外の人が奪う」というような捉え方をする方も中にはいらっしゃるのですが、私たちが目指したいのは、地域の強みや志のある経営者の方と外部人材とが一緒に事業を創り出すことで、地元の方が活躍できる場ができていくことや、さらなる外部人材の関わりが生まれていくことです。この小島製菓さんの事例では、自分たちが目指すべきものを改めて確信することができました。

――今後もこうした取り組みを進めていく?

【戸塚】テレワークが一気に進みましたから、オンラインでの複業で釜石のプロジェクトに参加していただく方がさらに増えると嬉しいですね。それは、自分らしく働くことにもなると思います。

 地域の企業は小さいところが多いのですが、その分、企業の心臓に近いところで活躍できますから、ぜひ、経験やスキルを活かしていただきたいと思います。また、外部人材を活用した先進的なプロジェクトに参加することも、良い経験になるのではないでしょうか。

 そして、釜石の人口は減っていますが、こうして自分らしく働く人が増えることで、釜石の産業が成長していけばいいなと思っています。。

――ちなみに、今の社員数は?

【戸塚】フルタイムで6人、パートタイムのような形で3人です。

――外部人材と地域の企業をマッチングする事業は、釜石以外の地域でも展開できそうですね。

【戸塚】できると思いますし、企業からお問い合わせをいただいて、岩手県内に広め始めているところです。

 当社ができるのは岩手県や東北地方だけかもしれませんが、パソナグループとして、全国的な動きにまで広げられればいいなと思っています。

《写真撮影:まるやゆういち》

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