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迫りくる大経済圏時代 最有力候補である通信キャリア「SRAD」の動向を読み解く

2021年03月30日 公開
2023年02月21日 更新

八木典裕(ベイカレント・コンサルティング チーフエバンジェリスト)

筆頭候補となるSRAD4社の強みとは?

次に、経済圏を構築し始めているSRAD4社が、いかにコンシューマー市場でシェアを獲得しているかを見ていきたい。コンシューマー市場の領域ごとに主要サービスを並べてみると、多くの領域でSRAD系のサービスが共存しており、シェアを奪い合っていることがわかる。

図4:コンシューマー市場の主な戦場と主要サービス
国内プラットフォーマー

これまでSRADの主戦場は、通信、Eコマース、そして金融領域であった。金融市場はメガバンク等の既存プレイヤーに加えて、小売系プレイヤー等も入り交じる混戦状態だが、それでも主要サービスの半数以上はSRADが関係するサービスとなっている。

そんな金融領域よりも、更にSRAD系サービスが支配的となっている戦場がEコマース領域である。ここではB2C型とC2C型を合わせても、AmazonとSRAD関係のサービスが制圧しており、陣取り合戦が完了している様相だ。

そして次なる戦場として、ライフスタイル領域での戦いが始まっている。ここ1、2年でSRADが勢力を拡大してきた領域だ。

例えばコロナ禍の影響を受け、急速に拡大するフードデリバリー市場を見てみよう。2大サービスの出前館とUber Eatsは、実は共にソフトバンクと深い関係を持っている。

出前館はLINEと資本業務提携の関係にあるが、そのLINEはソフトバンク傘下のZホールディングスと経営統合した。またUber Eatsに関しては、サービスを提供するUber社の筆頭株主がソフトバンクなのだ。出前館もUber Eatsもソフトバンク経済圏との連携を強め、それぞれLINEやPayPayアプリから使えるようになっている。

また、配車サービス市場を見てみると、こちらはドコモの存在感が際立つ。大手サービスの「Japan Taxi」と「MOV」(現在は統合され、「GO」がリリースされている)を抱えるMobility Technologies社は、2020年よりドコモと資本・業務提携関係を結んだ。d払いによる決済や、dアカウントでの認証など、MaaS領域全体での連携を予定している形だ。

一方、経済圏に属していない"独立系プレイヤー"が活躍しているのもライフスタイル領域の特徴だ。その筆頭と言えるのが、「ホットペッパーシリーズ」や「じゃらん」を展開するリクルートである。

外食、旅行、サロン検索で高いシェアを獲得しており、消費者のみならず、多数の企業(飲食店、旅館、美容室等)と深い関係を築いていることがサービスの質向上に大きく影響している。SRAD4社といえども、かねてから多数の企業とネットワークを作り上げてきたリクルートの牙城を切り崩すのは、簡単ではないだろう。

このようにコンシューマー市場を俯瞰してみると、SRAD系のサービスが影響力を増していることがわかるが、注目すべきはSRADが”どの市場に、どう重点を置いてきたか”だ。

彼らは手あたり次第に進出しているわけではなく、おそらく「経済圏の目的」から逆算し、優先して攻めるべき市場を見極めているのだ。

「経済圏の目的」は、消費者が生活の中で必要とするサービスを広く取り揃え、サービス間を連動させることで、経済圏内の流通額を最大化することだ。そのためには、消費者の利用頻度の高いサービスから押さえることが肝要だ。

まずは決済の流れをつかむために金融サービスを取り揃え、併せて消費に直接影響するEコマース市場から攻めていく。その次は消費者の日常に寄り添うために、ライフスタイル領域へとサービスを拡張していくという流れだ。

SRAD4社は既に、金融・Eコマース領域で一定のシェアを獲得しているため、本格的にライフスタイル領域に足を踏み入れ始めたのだろう。このような目的に沿ってサービスを拡張していく流れは大いに参考になる。経済圏を軸としたビジネスの進化に本気で取り組むSRADから、学べることは少なくないはずだ。

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