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オリンピアン為末大氏が現役時代コーチをつけなかったワケ

2021年04月14日 公開
2023年01月12日 更新

為末大(Deportare Partners代表/元陸上選手)

為末大

トップアスリートとして輝かしい成績を残し、現在はビジネスの場でも活躍している為末大氏は、「『質問』は競技力向上のうえで重要なスキルだった」と言う。いったい、どういうことか?

現役時代はコーチをほとんどつけず、専門分野にかかわらずさまざまな人に質問をしていたという為末氏に、自分を成長させる質問力について聞いた。

※本稿は『THE21』4月号より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

多くの人に質問してこそ自分を知ることができる

男子400mハードルの選手として活躍し、スプリント種目の世界大会で日本人として初めてメダルを獲得した為末大氏。3度のオリンピックを経験した長い競技生活の間、為末氏が重視していたのが「質問」だった。

「競技力は、自分の意図と、実際の身体の動きとのズレを是正することで向上します。ですから、外から自分がどう見えるのかを他人に聞くことが重要なのです」

そうしたフィードバックは、通常、コーチが行なう。しかし為末氏は、競技生活のほとんどの期間、コーチをつけなかった。

「コーチをつけなかったから、色々な人に質問をしなければならなかったという面もあります。けれども、色々な人に質問ができたことが良かった面もあります。

どんなに優れたコーチの意見でも、一人の視点に過ぎませんから。いわば、自分の姿を見るのに1枚の鏡しか持たないようなものです。多くの人に質問をすれば、それだけ多面的に自分を捉えられます。

日頃、一緒に練習をしている選手たちにも、小まめに質問をしていました。彼らは継続的に僕の練習風景を目にしているので、『今日はいつもと何が違うか』といった小さな変化を聞くことができました」

質問をする相手は、陸上競技の専門家に限らず、とにかく誰にでも聞いたという。

「練習風景の取材に来た少女漫画の編集者に、僕の練習がどう見えたかを聞いたこともあります。すると、『ほとんど休んでいるんですね』と言われました(笑)。

確かに、スプリント種目の練習は100mダッシュを1本→10分休憩→ダッシュ→休憩→……というような形で進むので、他の競技の練習と比べると、そう見えるのかもしれません。スプリント種目をやっている人間にはない視点で、新鮮でした。

専門家でなければ答えられないような質問に対する答えは、専門書を読めば得られることがほとんどです。もちろん、専門書を読んで体系的な知識を身につけることも重要ですが、専門家ではない人への質問から得られる答えには、気づかされることが多いですね」

 

課題解決のためには質問の「粒度」を細かく

質問は、具体的な課題に対する答えを得るためにも使う。その際は、他人に質問をする場合でも、自問自答をする場合でも、質問を何度も重ねて「粒度」を細かくすることが重要だと、為末氏は話す。

「例えば、僕がシドニーオリンピックで結果を出せなかった原因は何だったのか。まず考えられる答えは、『ハードルを跳ぶタイミングと脚が合わなかったから』です。

ここで質問を止めてしまって、『じゃあ、タイミングが合う歩幅で走る練習をしよう』となる選手が多い。けれども、ハードルの問題の多くは歩幅の問題に帰着すると言ってもいいほどで、これだけでは、さらなる競技力向上にはつながりません。

『なぜ、歩幅が合わなかったのか』と、さらに質問をすることで、『緊張していて風を感じる余裕がなかった』という事実が見えてきます。

風を受けると、歩幅が少しズレます。それに気づかないまま走ったことで、ズレが次第に広がり、ハードルとの距離が狂って跳べなくなったわけです。

では、『緊張してしまったのはなぜか』。さらにそう質問を重ねると、『自分は初めてのシチュエーションでは緊張するのだ』ということに気がつく。

ここまで来れば、『多様な状況に身を置くために、国外での試合を多く経験しよう』という解決策が明確に見えてきます」

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