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「面白くなければ社会課題は解決できない」1→10社長 澤邊芳明

2021年06月07日 公開
2021年06月15日 更新

【経営トップに聞く 第48回】澤邊芳明(ワントゥーテン社長)

退屈で困っている人たちを助けたい

1→10
写真撮影:まるやゆういち

――澤邊社長は18歳のときにバイク事故に遭い、首から下が動かせなくなりました。その後、24歳で起業しています。なぜ、起業しようと思ったのですか?

【澤邊】ご想像通り、事故に遭ったことで絶望しました。ただ、なぜ絶望したかと言えば、退屈だったからです。リハビリ病棟は退屈で、何も打ち込むことがない状況の中、自分は社会に必要とされていないんだなと思いました。

 そんなときに触れたのがPCです。当時、ちょうどPCのUIがテキストベースからGUIに変わってきていました。マウスを使って操作できるようになったのです。「これは自分の可能性を広げてくれる」と思い、没頭しました。

 そして、もともと理系でプログラミングも好きでしたし、芸大に入ろうかと悩んだこともあるほどデザインも好きだったこともあって、WEBサイトの構築で起業しました。

――起業しても失敗するケースも多いですが、なぜうまくいったのでしょうか?

【澤邊】大勝負に出なかったからでしょうか(笑)。

 もちろん最初から仕事があったわけではなくて、大学で周りの学生に声をかけて、チラシ配りのアルバイトをしてもらったりしました。通りを決めて、1軒ずつチラシを配って歩くんです。京都はワンマンオーナーの中小企業が多いので、オーナー社長が「うん」と言えば仕事になりました。当時はホームページを作りたいという企業も増えていました。

 そうしているうちに、私が障がい者なので、病院や福祉関係の依頼を受けることが増えていきました。はじめは嬉しかったのですが、病院のWEBサイトを作りたいわけではなく、自分が没頭できることで人にワクワクしてもらいたいから仕事をしているのだということを思い出して、あるときから、いっさい表に出ないようにしました。

 電話とメール以外ではお客様とも連絡を取らないし、写真もバストアップ以外は出しませんでした。「飲みに行きましょう」と言われても、「そうですね」と答えながら、行きませんでしたね(笑)。10年近く、そんな関係のお客様もいて、「澤邊さんって本当にいるんですか?」と聞かれたこともあります。

――また表に出るようになった理由は?

【澤邊】自分の評価を会社の評価が上回って、私が表に出ても1→10というブランドに影響がなくなったからです。

――経営者としての物の見方や考え方は、どのようにして鍛えてきたのでしょうか?

【澤邊】怪我をしたことが大きかったでしょうね。

 怪我をする前の私の世界には、障がい者はいませんでした。怪我をしたことで、それまで見えていなかった世界を見せられたわけです。その経験から、自分の見たものをそのまま信じないようになりました。絶えず俯瞰して、自分の見える世界だけで考えないようにしています。

 ほとんどの人は、WEB制作会社でうまくいっていたらWEB制作会社を続けると思いますが、私が事業内容を変えてきたのは、目の前の仕事だけでなく、世の中を俯瞰して見ていたからです。

――具体的には、どうやって俯瞰しているのでしょうか?

【澤邊】私は好奇心が半端なく強いんです。怪我をする前から興味を持つ対象が多いですし、興味を持ったことはとことん調べます。没頭できることを増やしていくのが楽しいんです。

 伝統工芸にしても、パラスポーツにしても、ちょっと触れてみれば興味が湧いてきます。すると、それを楽しめるようになり、人生が豊かになる。そんな人を増やしたいと思って、様々な事業を展開しています。退屈で困っている人を助けたいというのは、創業時からまったく変わっていません。

 コロナ禍による自粛で人々の行動が制限されたとき、私はリハビリ病棟にいたときのことを思い出しました。多くの人が、当時の私のように退屈を経験したわけです。

 その退屈を空費するのはもったいない。密を避けてキャンプやグランピングを始める人もいましたし、新しい趣味を始めたり、本を書いたりする人もいました。知的好奇心の高い人は、どんな状況でも自分の活動を拡張します。すると、人生の豊かさがまったく違ってきます。

 亡くなった私の父は、定年後に何の趣味もなく、ただ時間を潰していました。そういう方は数多くいると思います。これは大きな社会問題です。そんな方が何かに興味を持つきっかけを、私たちが作れればと思っています。

――確かに、CYBER BOCCIAにしても、触れてみると、俄然、ボッチャに興味が湧いてきますね。最後に、これからの取り組みについて、お教えください。

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CYBER BOCCIA S(画像提供:〔株〕ワントゥーテン)

【澤邊】「ENU(エヌ)」というアプリを近日リリースします(取材は4月)。様々な伝統工芸の作家や職人、アーティストなど、あらゆる「つくり手」に使っていただくSNSで、自分のタイムラインで、動画やテキストで有料会員に向けて情報発信をするものです。ECやライブコマースの機能もあります。ブロックチェーンを使ったNFTも搭載を検討しています。

 ファンに向けて、作品を制作しているプロセスを見せて興味を持っていただき、作品を購入していただくという、プロセスエコノミー時代のアプリです。

 こだわったモノ作りをしている方は全国に大勢いるのですが、多くはホテル用の装飾など、BtoBの仕事をしています。コロナ禍で困っている方が多いのですが、作家が作品を販売するルートは限られているので、ENUが助けになればと思っています。

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ENU(画像提供:〔株〕ワントゥーテン)

 将来的には、ホテルなどに飾られている作品の写真を撮れば、その作家とつながって、作品も購入できるようにしたいと考えています。海外の方に向けて自動翻訳の機能も載せたいですね。良い日本を海外の方々にもっと知ってほしいし、日本人にも自信を持っていただきたいと思います。

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