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リモートワークは一過性の流行で終わるのか!? 見落とされがちな「社員の帰属意識の変化」

2021年07月02日 公開
2023年02月21日 更新

長田英知(良品計画執行役員)

 

働く場所を選べれば、会社への帰属意識が強くなる

その一方で、企業は新型コロナ禍を契機に、リモートワークへのシフトを強めています。例えばアメリカのTwitter やSquare は「永遠に」社員の在宅ワークを認めると発表し、Facebook も会社の半数のメンバーは、5〜10年以内にリモートワークにするとしています。

では、過去に在宅ワークを推進したIBMが最終的には会社勤務重視の方針へと戻ったように、在宅勤務やリモートワークのトレンドもまた一時的なもので終わってしまうのでしょうか。

ここで、IBMなど初期のリモートワークの取り組みがなぜうまくいかなかったのかについて考えてみます。初期のリモートワークがうまくいかなかった最大の要因は、仕事を行う場所が自宅に限られ、就業時間が決められていたため、「どこでも、いつでも働く」という理念からはかけ離れていたことが原因だと考えられます。

長年、リモートワークについて研究を行っている米ハーバード・ビジネススクールのプリスウィラージ・チョードリー教授は、「リモートワーク= Work from Home という企業の認識を根本的に変える必要があり、大切なのはWork from Anywhere、すなわち社員がワーケーションも含めて自分の働く場所を選択できることが重要だ」ということを述べています。

実際、ワーケーションを行うことは、会社に対する帰属意識を高めるという実証結果も出ています。

2020年6月に株式会社NTTデータ経営研究所、株式会社JTB、JALが連携して沖縄県のカヌチャリゾートで行ったワーケーション実証では、自宅から離れたリゾート先で仕事をすることで、仕事の生産性が上がり、メンタルの改善につながるだけでなく、組織に対するコミットメントも12.6%向上し、社員の帰属意識が高まることが証明されました。

またワーケーションによってもたらされた仕事のパフォーマンス向上は、ワーケーション終了後1週間も持続しており、残存効果があったことがわかっています。

適度にWork from Anywhere at Anytime を取り入れることはアレン曲線には影響を与えず、むしろ会社に対する帰属意識を高めることがわかったのです。

もう1つ、IBMの取り組みがうまくいかなかった要因として、リモートワークを支えるテクノロジーが未熟であったことが挙げられます。

IBMがリモートワークを推進し始めたとき、オンラインでの会議や作業を行うのに十分なネットワークを外出先で確保することは難しい状況にあり、コワーキングオフィスも現在ほど整備されていませんでした。その結果、リモートワークとは必然的に、ネットワーク環境が整備された自宅での仕事を意味していたわけです。

しかし現在は喫茶店などでもフリーWi-Fi が整備されるようになり、スマートフォンのテザリングでのオンライン会議も可能になって、どこででも仕事ができる環境が整備されています。

自宅で仕事をする際に適用されるリモートワークのルールや手順をリゾート地でも適用していくことで、ワーケーションでも普段と変わらず仕事を行うことが可能となるのです。

そしてWork from Anywhere at Anytime の働き方が実装されるようになると、Live Anywhere、すなわち、どこででも暮らすことができるというライフスタイルが可能になります。

リモートワークやワーケーションからさらに一歩進んで、ライフステージの変化に応じて両親・親族の家の近くに居住したり、気候のよいリゾート地に移住したりといったことも可能です。

在宅で働きたいときもあれば、会社で同僚と顔を合わせたいときもある。そしてたまには地方に出て気分を変えて仕事をしたいといった、多様なニーズを満たす仕組みが整えられていることが、働き手が企業に求める新しい価値となります。

企業もこの変化を敏感に捉え、オフィスにいることを社員の帰属意識の表れとするのではなく、マルチロケーションで働くことができる環境を整えることが会社の競争力を高め、優秀な人材を呼び寄せる源泉になると認識することが重要です。

【著者紹介】長田英知(ながた・ひでとも)
東京大学法学部卒業。地方議員を経て、IBMビジネスコンサルティングサービス、PwC等で政府・自治体向けコンサルティングに従事。2016年、Airbnb Japanに入社。日本におけるホームシェア事業の立上げを担う。2022年4月、良品計画に入社。同年9月よりソーシャルグッド事業部担当執行役員に就任。社外役職として、グッドデザイン賞審査委員(2018~2021)、京都芸術大学客員教授(2019~)等。著書に『たいていのことは100日あれば、うまくいく』(PHP研究所)、『ワ―ケーションの教科書 創造性と生産性を最大化する「新しい働き方」』(KADOKAWA)などがある。

 

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