ホーム » THE21 » インタビュー » 有力投資家たちが注力する「気候変動問題解決」を素通りできない理由

有力投資家たちが注力する「気候変動問題解決」を素通りできない理由



2021年07月14日 公開

佐俣アンリ(ベンチャーキャピタリスト)

佐俣アンリ

事業会社や機関投資家から資金を預かり、ネット印刷を手がけるラクスルや仮想通貨取引所のコインチェックなど、数多くのスタートアップに投資してきた佐俣アンリ氏。ベンチャーキャピタリストとして注目している、2030年への大きな潮流とは?(取材構成:長谷川敦)

※本稿は、THE21編集部 編『2030年 ビジネスの未来地図』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

 

コロナ禍で世界経済が止まっても二酸化炭素排出量は-5.8%

僕が設立したベンチャーキャピタル「ANRI」のメンバーたちの間でいつも話しているのは、「未来の地球や社会を変える可能性を持ったスタートアップを支援していきたい」ということです。

例えば、今支援しているスタートアップの一つに、Craifという、尿1滴からがんの早期発見ができる検査技術の開発に取り組んでいる企業があります。これが実現すれば、誰もが苦痛なく気軽にがん検査を受けることができる社会になります。

地球や社会の未来を考えたときに、僕らが今後とりわけ力を入れていく必要があると考えているのが、気候変動対策に関わるビジネスへの投資です。

産業革命以降、人間の活動によって、地球の平均気温は現在に至るまでの間に約1℃上がり、今も上昇を続けています。これがもし2℃まで上がった場合、地球は人間が住めない世界になってしまうと予測されています。

気温上昇や旱魃、豪雨によって穀物の収量が激減することで、多くの人が飢餓に直面します。また、以前は熱帯でしか見られなかった感染症が、多くの地域に広がります。自然災害による死者や被災者も、確実に増加していきます。

今、世界的に議論されているのは、平均気温の上昇を1.5℃程度に留めたいということです。そのためには、二酸化炭素の排出量を、2030年までに2010年比で45%削減し、2050年には実質ゼロにする必要があります。

この「2030年までに45%削減」というのは、非常にハードルが高い数値です。何しろ、2020年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で世界中が経済活動を止めたにもかかわらず、二酸化炭素の排出量は前年比でわずか5.8%減少しただけだったのですから。今後、世界が相当な努力と創意工夫をしない限り、この数値目標を達成するのは困難でしょう。

だからこそ僕らは、地球の温暖化を止めるための技術の開発に取り組もうとしている人たちを探し出し、支援する必要があると考えています。

 

お金の大動脈の上流が脱炭素に動いている

僕らが気候変動対策に関わる事業を支援していきたいと考えているのは、地球や社会の未来のためだけでなく、今後10年のビジネスの風向きを展望したときにも、それが極めて有望だからです。

アメリカのバイデン政権の政策は、脱炭素社会の実現につながる産業に投資することで、地球温暖化の抑止と経済の活性化を同時に実現していこうという方向に明らかに向かっています。日本でも、菅義偉首相が、脱炭素社会を実現する技術革新を支援するために、2兆円の基金を創設することを表明しました。

僕が何より注目しているのは、機関投資家や大手金融機関の動向です。

機関投資家が環境への負荷が高い事業を行なっている企業への投資を引き上げたり、メガバンクが化石燃料関係の事業への融資を中止したりといった動きが、欧米を中心に加速しており、日本でも始まっています。

世界最大の運用会社であるブラックロックも、カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出と吸収を差し引きゼロにすること)についての事業計画を開示することを投資先企業に対して求め、開示の状況と計画の内容を、投資を行なう際の判断材料にしています。

日本の企業はASEANでの石炭火力発電所のプロジェクトに数多く参画していますが、機関投資家やメガバンクの資金提供が止まれば、当然、プロジェクト自体も吹っ飛んでしまいます。これからは、気候変動対策に反する事業については、リスクが高すぎて企業は手が出せなくなるわけです。

逆に、脱炭素社会の実現につながる事業には、たくさんのお金が集まるようになるでしょう。企業サイドから見れば、それが「飯の種」になるということです。

このように、今後の世界や日本のビジネスの潮流を予測するときには、お金の大動脈の一番上流に当たる、機関投資家や大手金融機関が何を考えているかをつかむことが重要になります。企業は、お金がないことには事業を継続することができませんから、彼らの意向には逆らえません。

例えば、近年、彼らが気候変動対策と共に力を入れていることの一つに、ダイバーシティの促進が挙げられます。

日本では2014年頃から、社外取締役が多いのですが、女性取締役の割合が急速に上昇しました。この動きは、明らかに機関投資家からのプレッシャーを受けてのものです。

アメリカでもゴールドマンサックスが、IPO(新規株式公開)の引受業務を行なうに当たって、企業側に対して「女性取締役がいること」を条件にしています。ブラックロックも、最低2人の女性取締役を登用していることを投資の条件としています。

次のページ
科学技術力の立て直しも日本の大きな課題 >



THE21 購入

2021年8月号

The21 2021年8月号

発売日:2021年07月09日
価格(税込):700円

関連記事

編集部のおすすめ

すべての企業が無視できなくなった「ESG問題」…稼ぐだけの企業が脱落する

泉貴嗣(CSRエバンジェリスト)

感染症対策の第一人者が提言「第二波には“ハンマーとダンス”で立ち向かえ」

國井修(グローバルファンド〈世界エイズ・結核・マラリア対策基金〉戦略・投資・効果局長)

気候変動,パンデミック,大地震…データが示す「コロナの先にある未来」

安宅和人(慶應義塾大学環境情報学部教授・ヤフー株式会社CSO)

2月開催!!ハッピーウーマンオンラインセミナーシリーズ-Dr.クリスティンペイジ

アクセスランキング

  • Facebookでシェアする
  • Twitterでシェアする
2月開催!!ハッピーウーマンオンラインセミナーシリーズ-Dr.クリスティンペイジ

話題のビジネス・スキルをやさしく解説するとともに、第一線で活躍しているビジネスパーソンの
プロのノウハウを紹介するなど、「いますぐ使える仕事術」が満載されています。

×