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コンサルタントが選んで納得した「面白くて、役に立った本」



2021年09月09日 公開

御立尚資(ボストンコンサルティンググループシニアアドバイザー)

御立尚資氏

様々な課題の解決に携わるコンサルタントは、幅広い視野や知識、深い思考を求められる。彼らはどんな本を読んでいるのだろうか。御立尚資氏は、「ビジネス書はあまり読まない」と語る。愛読書や本の選び方をうかがった。(取材・構成:塚田有香)

 

本を選ぶ一番の基準は「著者」

私はいわゆる経営コンサルタントを仕事にしてきましたが、もともとは文学部出身で、音楽やアートが大好きな人間です。自分は経済や経営の分野において保守本流ではない自覚があるので、それを逆手に取り、「辺境の人」として外側の領域からビジネスを見る視点を持とうとしてきました。

ですから読書についても、必然的にビジネス書以外を手に取ることが多くなります。愛読書を聞かれて真っ先に挙げるのは、『アルケミスト』です。ブラジルの小説家、パウロ・コエーリョによるビルドゥングスロマンで、羊飼いの少年が旅の中で様々なチャレンジをしながら成長していく物語です。

私がこの小説を好きな理由は、人生は先まで見通せない“ジャーニー”だという感覚が貫かれているからです。

スティーブ・ジョブズの有名なスピーチに、「Connecting the dots(点と点をつなげる)」という言葉が登場します。私たちは将来を予測して行動することはできない。できるのは、あとから振り返ったときに点と点をつなぎ合わせることだけだと彼は語っています。

これはまさに『アルケミスト』で描かれているテーマです。人生という旅の中では、色々なことが起こります。そのときはこの経験が何に役立つのかわからなくても、あとから振り返ってみると点と点がつながって、「ああ、そういうことだったのか」と思える。私もそんなふうに人生を旅したいと思っています。

そもそも私は「5年後、10年後までにこれをやる」といったタイムスケジュールを組むのが大の苦手です。だからモットーは「希望するが、予定しない」。私たちは「1匹の蝶の羽ばたきが、地球の裏で嵐を起こす」と表現されるカオスの世界に生きています。

ほんのわずかなきっかけで、思いもよらないことが起こる。その連続の中で人生を紡いでいくのですから、「こんなことができたらいいな」という漠然とした希望は持ちつつ、先の予定は決めずに旅を続ければいいと考えています。

私は本を“人”で追いかけるタイプで、「この人が本を出したら必ず読む」という著者が何人もいます。心理学者の河合隼雄先生もその一人で、著作のうち1冊と言われたら『深層意識への道』を挙げます。

河合先生の多くの著作にも、「Connecting the dots」に通じる話が出てきます。同氏によれば、心の病を患った人の多くは、自分の人生をストーリーとして語れないそうです。つまり過去を振り返って、点と点をつなげない。それはとてもつらいことだと書かれています。

これは、人生で起こったいいことも悪いことも予想外のことも後々につなげて、「なるほど、だからこうなったのか」と納得できるストーリーを持てれば、健康な精神状態に戻れるということ。

もちろん予想外のことが発生すれば苦労や混乱も経験しますが、一方で人生には思いがけない楽しみや喜びが突然やって来ることもある。だから目の前に流れが来たらひとまず飛び乗って、それがいいことか悪いことかはあとで振り返ればいい。そう思えることの大切さを、河合先生の著作から学びました。

 

20世紀初頭の南極探検と、今の時代の共通点

「悲観は感情の問題だが、楽観は意志の問題である」

これは哲学者アランの言葉ですが、まさに「意志を持って楽観的であること」を実践し、自身が率いるチーム全員の命を救ったのが、人類初の南極点到達を成し遂げたロアール・アムンセンです。

それに対し、アムンセンとの競争に敗れたうえ、本人を含め全隊員が遭難死する結末を招いたロバート・スコットは悲観的だったと言われています。

対照的な運命を辿った二人の物語は有名ですが、本多勝一さんと日本の第一次南極越冬事業で隊長を務めた西堀栄三郎さんとの対談を収録した『アムンセンとスコット(本多勝一集28)』は、大変面白く読めます。

今の世の中は20世紀初頭の極地探検に似ていて、誰もが先が読めない中を進んでいます。パンデミックや自然災害、デジタルの進化と、思いもよらないことが突如として起こる。その状況下でできる限りの準備をしたうえで、意図的に楽観的でいること。その重要性を教えてくれる1冊です。

私はエッセイを読むのも好きで、中でも繰り返し読んでいるのが、丸谷才一さんのもの。例えば、『挨拶はむづかしい』です。

自分が冠婚葬祭やパーティーでどのようにスピーチしたかを紹介しつつ、挨拶の心得を綴った本ですが、丸谷さんのすごさは、軽く読めるエッセイの裏側にある教養の深さを、読み手にひしひしと感じさせるところ。

同氏の『思考のレッスン』は、「どうすればいい考えが浮かぶか」の極意を明かした1冊で、学生や若手コンサルタントには必ず読むように勧めています。

村上春樹さんのエッセイも好きで、音楽について書いた『意味がなければスイングはない』は特にお気に入りです。私は音楽やアートが好きなので、愛読書を挙げるとなると、やはり芸術に関するものが入ります。

 

好きな本を仕事にも活かす2つの条件

最近読んで面白かった本も、やはり愛読書の延長のようなものが多くなります。小説で面白かったのが、原田マハさんの『リーチ先生』です。

英国生まれの陶芸家で、日本の民芸運動にも深く関わったバーナード・リーチと、彼に師事した少年の物語で、恥ずかしながら私は読んで泣いてしまいました。登場人物が先の見えない中で何かを信じて歩んでいき、その過程で経験する心の揺れを描いた小説が自分は好きなのだなと再認識した次第です。

次もアートつながりで、落合陽一さんの『魔法の世紀』を挙げたいと思います。昨年、岡山県にある大原美術館で、同館長の高階秀爾先生と落合さんの対談を行ないました。私がファシリテーターを務めたのですが、その際に改めて本書を読み返し、落合さんがデジタルとアートの交点を探そうとしていることが理解できました。

彼が研究する「デジタルネイチャー」は、リアルな物質世界とバーチャルな実質世界の境界線が曖昧になった世界を意味します。この世界で、アーティストとして一つの自然生態系を作ろうとしているのです。

次は安宅和人さんの『シン・ニホン』。私にしては珍しく、ビジネスにも近い領域の本です。慶應義塾大学教授でヤフーのCSOでもある著者が、デジタル革命を踏まえながら「どうすれば日本の人たちがより幸せになる未来を作れるか」を膨大なデータとロジックで論じた壮大な内容となっています。

前述の通り、私は基本的に「自分が面白いと思う本を読めばいい」というスタンスです。とはいえ、それが仕事にも役立つならなおいいでしょう。では「面白い×役に立つ」を両立するにはどうすればいいか。条件は二つあります。

一つは、基礎的なフレームワークを身につけていること。これは「各分野の専門家に質問できる程度の基本的な知識」と考えてください。経済学や経営学なら、大学の教養過程でテキストに指定される類の本を読んでおけばいいでしょう。

もう一つは、自分なりの課題認識を持っていること。「気候変動」でも「AIと倫理」でも「地政学リスク」でも何でも構わないので、「これってどうなんだろう?」と考え続けているテーマがある。この二つの条件が揃えば、面白くて役に立つ本にいくらでも出会えます。

私が『シン・ニホン』を面白く読めたのも、統計学やデジタル技術の基礎的なフレームワークを理解し、なおかつ安宅さんと自分の課題認識が重なっていたからです。もし基礎がないままこの本を読んでも、ただ圧倒されるだけで終わってしまったでしょう。

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発売日:2021年09月10日
価格(税込):700円

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