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繁華街付近に密集する狭い戸建て...地形でひも解く「東京23区の格差」のワケ

2021年11月10日 公開

橋本健二(早稲田大学教授)

 

段階的に家賃を設定した"都営住宅の供給"が格差縮小に有効

――東京の中の格差は広がっているのでしょうか?

【橋本】本書の「口絵4 東京23区の1人あたりの課税対象所得額の推移」を見ればわかるように、バブルの影響を受けている1990年とその直後を除けば、一貫して広がっています。

――要因は?

【橋本】1980年代終わりから都市問題の研究者の間では言われてきたことですが、一番大きいのは産業構造の変化です。

当時、世界中の先進国の大都市で製造業が衰退し始めました。新興国との競争に負けたり、都市から周辺へ移転したりしたためです。逆に発展したのがIT産業と金融業、そして、これらの産業やこれらの産業で働く人たちを支えるための雑多なサービス業です。

所得水準は、ITや金融が高くて、製造業が真ん中、サービス業が低い。だから、製造業が減って、IT、金融、サービス業が増えると、格差が拡大するわけです。

サービス業は非正規労働者が多いので、非正規労働者も増えて、貧困層も増えることになりました。

東京も、おおむね、他の先進国の大都市と同じ経過をたどってきたと言っていいと思います。ただ、東京には多数の移民が集まっている地域が今のところない点は違いますが。

――各先進国で、そうした格差拡大への対策は取られている?

【橋本】本書にも書いたように、地域の住民構成を多様にして、地域間の格差が大きくならないようにする「ソーシャル・ミックス」が必要だという指摘がよくされます。しかし、格差が拡大し、住み分けの構造を強める動きが進んでいて、必ずしもその通りになっているわけではありません。

東京でも、工場の跡地にマンションが建ち、下町に中間層が流れ込むといった、「ジェントリフィケーション」と呼ばれる現象も起こっていますが、格差拡大のトレンドが打ち消されるほどにはなっていません。

――今後、東京の中の格差は、さらに拡大する?

【橋本】歯止めがかかってきているんじゃないかと思っています。下町に建ったマンションに中間層が移り住むのに加えて、山の手の高級住宅地で高齢化が進み、所得水準が下がってきているからです。

とはいえ、山の手の住民が持っている資産が減るわけではないので、そういう意味では格差が縮まるわけではありませんが。

――格差を縮小するためには、どうすればいいでしょうか?

【橋本】全社会的には、まず、非正規労働者の賃金を上げること。そのためには、最低賃金の大幅な引き上げが必要です。

そして、労働時間の短縮。私が「新中間階級」と呼んでいる、学歴が高いホワイトカラーの正社員は、もともと非正規労働者よりも所得水準が高いうえに、残業手当ももらっています。正社員の労働時間を短縮すれば、企業は正規労働者の数を増やさざるを得ず、非正規労働者から正社員への移動が起こります。すると非正規労働者が人手不足になって、その賃金が上がるようになります。

3つ目は、生活保護制度の改革です。貧困層のうち生活保護を受給している人の割合を捕捉率と呼びますが、これが日本では15%しかないと言われています。生活保護の認定のやり方を改めて、捕捉率を高める必要があります。

以上は一般的な話ですが、東京に関しては、安くて質の高い都営住宅を、多く供給することが重要だと考えています。

今は所得が低くないと都営住宅に入居できないことになっていますが、そうすると、都営住宅に「貧困層の塊」というスティグマ、レッテルが貼られ、周辺の住民との軋轢が生じてしまいます。それを避けるために、家賃に段階を作って、貧困層から中間層までがミックスして入居できる形にすることが有効だと思います。

東京都は20年以上も都営住宅を新設していないのですが。

――最後に、今後の研究テーマを教えてください。

【橋本】研究グループとしては、東京23区だけでなく、都心から60キロメートル圏を対象にしてきました。これを、名古屋と京阪神を含めた3大都市圏に広げようと、データ分析を進めているところです。

東京の場合、都心はもともと貧困層が多い地域だったのですが、そこにタワーマンションが建ったり、商店街が高齢化して商業施設に変わったりして、所得水準が上がりました。その結果、都心の所得水準が高く、周辺が低いという、単峰型になっています。

一方、大阪では今でも天王寺や西成などの中心部に貧困層が多く、高所得者は、高槻や神戸など、都心から少し離れたところに分布しています。名古屋も同様で、都心よりも豊田のほうが所得水準が高いなど、東京都は違う傾向が見えてきます。

また、個人としては、下町の魅力を高める活動をしたいと思っています。

山の手には、下北沢や高円寺、二子玉川、三軒茶屋、中目黒など、魅力的な商業地域があって、それが住民を惹きつけています。それと同じように、個性的な商業地域が下町にもいくつもできれば、比較的所得の高い中間層が流れ込んできて、下町のイメージが上がり、地域間格差が縮小していくのではないかと思います。

立石や赤羽、北千住などにわざわざ出かけて酒を飲む人も結構いますから、そういう人に、さらに一歩進んで、下町に住んでほしいですね。

実際、先ほどお話ししたように、下町に中間層が流入する動きはすでに起こっていて、下町の雰囲気は少しずつ変わりつつあります。本書の中でも、門前仲町の例を取り上げました。

私は居酒屋巡りも趣味の1つなので、研究者としての活動ではありませんが、下町の飲食店街を紹介して、その魅力を伝える著作も書きたいと思っています。

 

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