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「褒めるのは本当にいいこと?」 上司部下の信頼構築に役立つ組織心理学

2021年11月19日 公開

山浦一保(立命館大学教授)

山浦一保

今年9月に出版された山浦一保著『武器としての組織心理学』(ダイヤモンド社)は、「妬み」「温度差」「不満」「権力」「信用(不信感)」という、企業などの組織に蔓延する5つのネガティブな人間関係を取り上げ、それぞれにどう対応すればいいのかを、組織心理学の研究成果を紹介する形で解説したものだ。なぜ、組織心理学の研究をするようになったのかなどを、山浦氏に聞いた。

 

経験で語られることの多い企業内の人間関係を、学問の対象に

――まず、組織心理学の研究をするようになった経緯についてお聞きしたいと思います。

【山浦】もとは小学校の教員になろうと思っていて、心理学というものの存在すら知らずに、大学では教育学部に進学しました。

心理学に出会ったのは、確か、2年生のときです。何十人という学生が一斉に教育実習に行ったのですが、体格のいい、力の強い"お兄さん"の実習生に、「僕も高い高いして」などと言いながら、子どもたちが集まっていきました。

子どもたちは自然に集まってきてくれるものだと思っていたのに、私のところには集まってきてくれませんでした。子どもはとてもピュアで正直なので、時として残酷なところがありますね(笑)。「力のない自分には、あんなことできないしなあ」と、愕然として教育実習を終えました。

それから大学に戻って、心理学の授業に出会ったんです。実際にはそれまでも受けていたはずなのですが、意識していませんでした(笑)。子どもたちを理解するには、心理学が役に立つんじゃないかと思って、その授業の担当の先生の研究室に入りました。

――その時点では、子どもを対象にした心理学に関心を持ったということですね。

【山浦】そうです。算数が嫌いな子もいれば、体育が嫌いな子もいる、逆に大好きな子もいる。そんな様々な子どもたちが30人も40人もいるチームどうすれば育てられるのか、どうすれば皆で楽しめるのか、といった学級経営が最初の関心事でした。

――そこから、企業やスポーツチームに対象を移した経緯は?

【山浦】卒業論文や修士論文では、説得の研究をしました。どうすれば人の態度や行動を変えられるのか、という研究なのです。"人を動かす"とは、今では何ともおこがましく思えていますが(笑)。

ただ、「一方的に人を説得するのはおかしい。言葉をかけた相手は、受け入れるにせよ、嫌な顔をするにせよ、何らかの反応を返すはずだ。そこまで含めて研究するべきだ」と考えていて、修士論文ではそうした相互作用を扱いました。

そこから、さらに博士課程でも研究をしたいと思ったのですが、所属していた大学院には修士課程までしかなかったので、大学院を変えました。その先が企業のことを扱っている先生方のいるところだったので、私もフィールドをシフトしたり、広げていったりしました。

実家は会社を営んでいたので、子どもながら、わからないなりに見聞きしたり、肌で感じたりしてきたものはあったと思います。そこが今も企業を対象にし続けている原体験かもしれません。

企業はスポーツを支える力の大きな源泉でもあります。企業の体力とスポーツチームの魅力がマッチしてほしいと思うので、どちらのフィールドでも学びたいと思っています。

――企業の中の人間関係などについて、世の中では、学問的な研究よりも、経験で語られることが多いように感じます。

【山浦】確かに、ビジネスの世界で活躍されてきて、持論を持たれている方は多いですね。そうした方々から学ぶことも、私はいまだに多いです。

私はそうした方々のように迫力を持って語ることはできませんから、私にできること、できる範囲で学問的な成果を示してお話をさせていただいています。

――研究は、企業の中に入って観察したりするのですか?

【山浦】現場の方が許してくださったり、企業との共同研究だったりする場合は、そうさせていただきます。ヘルメットをかぶり、鉄塔のような高いところに登ったりして、現場の方の仕事内容を肌で感じさせていただく機会もあります。

アンケートによる意識調査もしますし、具体的に要因を絞って、その影響を知るための実験室実験も行ないます。例えば、一般的に「褒めることは大事だ」と言われていますが、本当にそうなのか、どのくらい影響があるのかを、実験で確認したりします。

――企業を対象にするようになって、面白さを感じるのはどこですか?

【山浦】人間って万華鏡みたいだな、と思いますね。

皆さん、よかれと思って活動しているのは、子どもも大人も、リタイアされた方も、同じです。けれども、余計なひと言を言ってしまったりして、うまくいかない。

相手がムッとして関係がこじれていくきっかけがあるのですが、よかれと思ってやっていることなので、自分では原因が探れない。だから、研究が役に立つのだと思います。

――研究の成果を社会に還元するためには、どのようなことをしているのですか?

【山浦】今回のように本を出させていただいたり、取材を受けたりという機会は、すごくありがたいです。

私は緊張しやすくて外向けに活動するのが得意ではないのですが(笑)、講演のご依頼をいただくこともあるので、日程が合えば、できるだけお引き受けするようにしています。そうしたお声がけは大事にしたいと思っています。

今後の社会を支えていく人たち、私の身近なところで言えば大学院生たちとの、講義や研究室のミーティングでのディスカッションも大切にしています。そこで得たものを現場に持って行って活躍してもらいたいですね。

――講演では、どのような話をされるのでしょうか?

【山浦】私の専門のリーダーシップについてのご依頼が多いですね。最近では、メンタルヘルスや、自主的に動く人材をどう育成したらいいのか、といったテーマも多いです。

地域のジュニアスポーツの指導者の方から、「子どもたちにこんな言葉をかけるのはいいのか」といった相談を受けたこともあります。お話をさせていただいて勉強になったので、興味を持つ学生がいたら、一緒に研究してみようかなと思ったりもしています。

――日本の組織心理学の研究は、海外と比べて、どうなのでしょうか?

【山浦】組織心理学は、社会心理学を企業やスポーツチームに特化させた分野、あるいは応用した分野で、産業・組織心理学とも呼びます。企業やスポーツチームには、どうしてもヒエラルキーがありますから、その中でのリーダーシップの研究が盛んに行なわれてきました。これはもともとアメリカが強い分野で、日本もその影響を強く受けてきた向きがあります。

けれども、日本で生まれたリーダーシップ論もありますし、海外と比べて遅れているということはありません。

――リーダーシップの形はアメリカと日本で違うような気もします。

【山浦】そういう研究も出てきています。ステレオタイプ的にも思いますが、西洋のリーダーシップは「1か、0か」「あれか、これか」という切り口なのに対して、東洋のリーダーシップは「あれも、これも」という、陰と陽が一体になっているようなものだ、という研究です。

とはいえ、古典的な研究で示されているリーダーシップで大事な軸は洋の東西を問わず共通していますし、人間はそう変わらないと思っています。

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