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名だたるトップ企業に学ぶ「失敗を遠ざける会社」の将来が危ぶまれるワケ

2021年11月24日 公開
2023年02月21日 更新

荒木博行(学びデザイン社長)

 

未来は読めない。だから、手を多く打つしかない

――本書で取り上げた事例は、普段から集めていたのですか?

【荒木】いえ、書くことになってから集めました。

本書の特徴は、すべて公開情報だけを使って書いたことです。それぞれの失敗の裏には、本当はもっと生々しいやり取りがあったはずなのですが、表に出てきていないことは書いていません。

失敗した経緯を生々しく描くことではなく、それぞれの失敗を解釈し、エッセンスを抽出して、「あなたも失敗への途上を歩いていませんか」と読者に気づいてもらうことが、本書の最大の眼目だからです。

――公開情報だけで、これだけの学びが得られるのですね。

【荒木】「フェイスブック ホーム」のように、あっという間に失敗して、グローバル展開する前に終わってしまったため、日本語の情報がほとんどなく、英語の情報を多く使ったものもあります。

仮説を立ててから情報を集めたわけでもありません。例えば、GAFAの一角を占めるグーグルの事例は入れたい。グーグルの失敗事例だと、グーグルプラスがいいかな。じゃあ、グーグルプラスの情報を集めよう、という感じです。

まっさらな状態でリサーチをして、「こういう分析をしている人もいるのか」と横目で見ながら、結果として、見えてきたものがありました。

――それにしては、本の全体の構成が整っているように感じます。

【荒木】調べてみたら、この事例とこの事例は似ていたな、と気づいたものもあります。「事業の構造編」は、顧客・競合・自社を分析する「3C分析」に則った構成になっていますが、完全な後付けですね(笑)。

――情報を集めたことで、新たな発見はありましたか?

【荒木】先ほども触れましたが、どうしようもない失敗というものが結構あるんだなと気づきました。

例えば、1961年にトヨタ自動車工業(現・トヨタ自動車)が発売した「パブリカ」。国民車として開発されましたが、ほとんど売れませんでした。

それは、高度成長期は、5年前にはとても買えなかったものが、5年後にはチープなものになってしまう時代だったからです。

自動車の開発には、どうしても5年ほどかかってしまいます。消費者のニーズを読み取って開発をするのは正しい姿勢ですが、開発をしている間に、そのニーズが変わってしまったのです。

ところが、トヨタがすごいのは、その失敗をすぐに活かして、1966年に「カローラ」を発売し、大ヒットさせたことです。カローラを生み出す原動力になったという意味では、パブリカも失敗だったとは言えないわけです。

――最後に、読者に向けてメッセージをいただければ。

【荒木】コロナ禍において、どんなビジネスモデルを作るのかは難しい問題だったと思います。今(2021年11月初め)は新規感染者数が少なくなっていますが、これからどうなるかもわかりません。

そんな状況では、PDCAを高速回転させなければなりません。失敗を恐れるのではなく、10手を打って、そのうち1手が成功すればいいと考えて、手を打つべきです。9手が失敗しても、成功した1手が次の事業の柱になればいいじゃないですか。

つまり、我々には未来は読めないということです。もし読めるのなら乾坤一擲の1手を打つ戦略を立てられますが、そんなことはできません。だから、手を多く打たなければならないんです。

 

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