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「財政破綻は起きない」専門家が論じない日本経済がヤバくなる本質的な原因

2021年12月17日 公開
2021年12月22日 更新

田内学(元ゴールドマン・サックス証券金利トレーダー)

 

机上の理論ではなく、現実の社会から考えよう

――本書を出版した反響はいかがですか?

【田内】メディアの取材を受けたり、書評に取り上げていただいたりもしていますし、書店員の方に気に入っていただいて、店頭で大きく展開していただいたりもしています。

宣伝のためにInstagramを始めて、インスタライブをやったりもしたのですが、観てくれた方の7~8割が女性でした。すべての方に読んでいただきたいと思って書きましたが、かなり幅広く読んでいただいています。

金融業界で働く方々だけでなく、高校生や大学生、主婦、財務省や厚労省の官僚、大手企業の経営者などからも感想をいただいています。感動してくれた大学生が、大学に掛け合って、私の講演会を企画してくれたのは、非常に嬉しかったです。

――経済学者の反応は?

【田内】本書の帯に推薦文を寄せてくださった(東京大学の)小島武仁教授や、書評を書いていただいた(獨協大学の)森永卓郎教授など、好意的な方々もいる一方で、批判的な方たちもいらっしゃいます。「従来の理論に言及せずに書いているからけしからん」と。

ギリシャ危機のときにテレビで「日本国債は暴落する可能性がある」と話していた経済学者にも、当時、お会いして話をした際、「理論に基づいていない」と批判されました。「自分の考えは経済学者たちが築き上げてきた理論に基づいているから間違いない」と言うのです。私から見ると、実際のお金の流れをわかっていない議論なのですが。

そもそも、問題を解くのに特定の理論を使わないといけないと思っていることが、理系出身の私から見るとおかしい。例えば、直角三角形の斜辺の長さを求める方法は、ピタゴラスの定理を使わなくても、他にもいくらでも別解があります。社会で起こっている出来事の説明の方法にも別解があっていいはずでしょう。

そして、経済の議論は、相関関係と因果関係を混同していることも多いと感じます。例えば、「GDPが高いほど幸福度が高いというデータがあるから、幸福度を上げるにはGDPを上げる必要がある」と主張する人もいます。

確かに、GDPが高いことと幸福度が高いことには相関関係があります。しかし、その因果関係については考えない。そのため、GDPを増やすことを目的にして、「大きな経済効果がある」と言って、国立競技場などの多くのオリンピック施設を作りましたが、果たして国民の幸福度は上がったのでしょうか。

こうした「専門家」たちが政治に影響を与え、一般の人たちは「経済のことはわからないから専門家に任せればいい」と考えている状況があります。これは問題だと感じたのが、本書を書いた理由の1つです。

ですから、政治家や官僚にも読んでいただきたいと思っています。実際、財務省に勤める友人に、話題の矢野(康治)財務次官にも読んでもらいたいと言われたのは嬉しいですね。

本書を書いたもう1つの理由は、特に「老後2000万円問題」が言われるようになってから、世の中の人たちがみんな「自分の財布の中」ばかり見るようになっていると感じることです。書店に並ぶお金の本も、自分のお金を増やすためのマネーゲームの話ばかり。

本来の投資は、そのお金で人に働いてもらい、それによって新たな価値を生み出すものです。社会全体の価値を増やさず、お金を奪い合うだけの投資は、馬鹿らしい。そのことに気づいていただきたいとも思っています。

 

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