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社内ベンチャーだったアスクルを躍進させた、岩田彰一郎氏の「ラグビー型経営」

2021年12月24日 公開
2023年02月21日 更新

岩田彰一郎(フォース・マーケティングアンドマネージメントCEO)

岩田彰一郎

オフィス用品通販のパイオニア「アスクル」を社内ベンチャーとして立ち上げ、その後、独立して大きく成長させた岩田氏。躍進のカギは組織づくりにあると言う。(取材・構成:杉山直隆、写真撮影:長谷川博一)

※本稿は、『THE21』2021年12月号より一部抜粋・編集したものです。

 

ポジションが違っても「ワンチーム」が理想

オフィス用品が注文日の翌日に届き、小売店よりも安く買える。オフィス用品通販の先駆けとして1992年に産声をあげたのがアスクルです。

事務機器メーカー・プラスの新規事業としてカタログ販売からスタート。多少伸び悩んだ時期もありましたが、順調に業績を伸ばし、現在では年商4200億円、従業員数は3000人を超えるまでに成長しました(連結)。

成長できた要因としては、まず、サービスの魅力があると思います。アスクルの名前の由来になっている翌日配送は、今でこそ当たり前ですが、90年代当時は画期的なサービスでした。

さらに、プラスだけでなく、コクヨやキングジムといったライバルメーカーの商品まで取り揃えていて、小売店よりも値段が安い。これらを実現したことで、多くの企業から支持されました。

それに加えて、もう1つ、アスクルの躍進を支えてきたのが、「ラグビー型経営」です。

今もその傾向がありますが、2000年代頃までの日本企業のほとんどは「野球型経営」をしていました。監督が、ピッチャーやレフトなど一人ひとりにポジションを与え、選手はそのポジションの仕事だけに集中して取り組むスタイルです。レフトがセンター寄りに飛んだボールを捕りに行くことはありますが、ピッチャーのボールを捕りに行くようなことはしません。

その野球型経営と対極を成すのが「ラグビー型経営」です。バックスやスクラムハーフ、ウイングなど、ポジションは決められていますし、約束事もありますが、誰がトライを決めても構わない。相手にトライを決められそうになったら、ポジションに関係なく、全員が一丸となって追いかけて、阻止する。このような経営スタイルです。

会社で言えば、一人ひとりポジションがあるけれども、「今、会社はどんな状況にあって、何が必要なのか。その中で自分は何をするべきか」を自分で考えて、ポジションにとらわれずに自由に動く。「こういう問題がある」と指摘するだけでなく、自ら行動する。そんな自律的な組織を目指してきました。

また、組織にヒエラルキーを作らず、管理職も一般従業員も皆フラットな仲間である。皆が「ワンチーム」だと思えるような組織も、ラグビー型経営の目指すところです。

 

物流センターの火災に「義勇軍」が駆けつけた

このラグビー型経営が実を結んだと感じたのは、物流センターにトラブルが発生したときです。

アスクルは、大規模な物流センターから商品を配送していますが、様々なトラブルによって配送が遅れることがありました。「明日来る」をお客様と約束している組織としては、あってはならないことです。

そのときにありがたかったのは、多くの「義勇軍」の従業員が、自主的に物流センターの救援に走ってくれたことです。

例えば、名古屋の物流センターが止まったとき、東京で通常業務を終えた100人の従業員が新幹線で名古屋に行き、深夜に商品のピッキングを手伝ってくれたことがありました。

また、2017年に埼玉県の物流センターで大規模な火災が発生したときも、全国からのべ4600人もの「義勇軍」が集まり、出荷作業を手伝ってくれました。

いずれも上層部から指示したわけではなく、現場の従業員が自主的に足を運んでくれたのです。だから、「義勇軍」と呼んでいました。

執行役員も従業員も、役職に関係なく応援に入ったのですが、現場のリーダーが執行役員に作業を指示するという、ヒエラルキーにとらわれない様子があちこちで見られました。

全員が一丸となって業務に向かっていく。自分で考えて自分ができることを自主的に行なう。このラグビー型の組織文化があったからこそ、アスクルはここまで成長できたと実感しています。

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