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「ガーナから日本へ、高品質のカカオと豊かな精神性を」Mpraeso CEO 田口愛

2022年01月08日 公開
2023年09月25日 更新

【経営トップに聞く 第58回】田口愛(Mpraeso CEO)

インドネシアやタンザニアの農園に飛び込みで工夫を学んだ

――その次のステップは?

【田口】現地で作ったサンプルを日本のショコラティエに食べてもらって、おいしいと言ってもらえることが増えていきました。けれども、ショコラティエは全員がカカオの品質を上げる方法を知っているわけではありません。

ガーナにもカカオの品質を上げる活動をしている人がほとんどいなかったので、ワークショップやアルバイトで貯めたお金で、インドネシアやタンザニアの良質なカカオがとれる農園を訪ねました。そこで行なわれている工夫を学んで、翌冬、ガーナに戻り、発酵や乾燥などの方法を改善していきました。

例えば、乾燥させているときに突然雨が降って、中が腐ってしまうことがあったので、傘を作ったりしました。発酵の具合も、色々な産地を回ったり、チョコレートを作る作業を手伝わせていただいたりしているうちに、色や匂いでわかるようになってきました。

――農園ごとに工夫をしている?

【田口】政府が一括管理しているガーナのカカオはコモディティ豆として安く出回っているのですが、他の地域では商社などが直接農家と接しているので、ニーズとの齟齬が少ないと感じました。

――インドネシアやタンザニアの農園には、どのようにアプローチしたのですか?

【田口】やはりカカオ農家がチョコレートを作ることはとても少ないので、カカオからチョコレートを作って食べてもらうと喜んでくれましたね。「今まで食べたものの中で一番おいしい」と言ってくれた人もいました。

――まずは現地に行ってみてから?

【田口】そうです。

――カカオ農家の収入を上げるためには、一括管理をしている政府との交渉も必要ですね。

【田口】各地域にカカオを集める倉庫があるので、まずはそこに話をしに行きました。

初めは相手にされないことも多かったのですが、「日本でのガーナ産カカオの信頼度は低くなっている。でも、高品質のものがあれば高く買いたい人はいる」という話をしていると、地域のトップの方に応援していただけることになりました。カカオの国際市場での価格は低くなっていて、ガーナ側も改善の必要性を感じていました。

そして、ガーナ政府と、日本最大手のカカオ輸入商社の〔株〕立花商店と一緒に、冒頭でお話しした実証実験を計画していたのですが、それに当たって会社の登記ために日本に帰国したところ、新型コロナの感染拡大が始まってしまいました。

コロナ禍の中でできることを考えて始めたのが、クラウドファンディングです。ガーナでカタツムリやネズミを食べたりなど、普段の日常生活をSNSに上げたりはしていたのですが、活動をきちんとまとめて発信はできていなかったので、それを整理し、その意義や「この夢を諦めたくない」という想いを発信しました。

すると、目標を100万円にしていたのですが、初日で達成し、最終的に427万円を集めることができました。おかげで、カカオの輸入だけでなく、現地に日本の衛生基準に合ったチョコレート工場を建設することもできる見込みです。

SNSでの発信でも認知が広まってきて、西武池袋本店からTwitterのDMをいただき、2021年のバレンタインイベントへの出店のお話もいただきました。クラウドファンディングのリターンとして私が作っていたチョコレートしかなかったので、それを持って伺うと、「力強くておいしい」と言っていただき、出店が正式に決まりました。そこで、1~2カ月でMAAHAというブランドを立ち上げました。

――社会貢献への意識が高い顧客も多い?

【田口】西武池袋本店の方によると、エシカルやSDGsへの意識が高まっていて、「このチョコレートは、どんな人が関わって作っているんですか?」と聞かれることも多いそうです。

実際、当社の商品は少し高いのですが、価値を感じて購入してくださるお客様が多くいました。売上の一部を、ガーナの女性の雇用支援やカカオ農家の自立支援などに回すようにもしています。

トレーサビリティやサステナブルな価格で取引されているかどうかも「品質」として捉えられるようになってきているので、その点にも敏感に対応していきたいと思っています。

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