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日本企業に「いつまでも現場に居座る上司」が多い決定的な理由

2022年03月09日 公開
2023年02月21日 更新

中原淳(⽴教⼤学教授)

 

目標伝達に必要なのは「ストーリー」を作る力

マネジャーの役割の三本柱は、

(1)意思決定
(2)部下育成
(3)目標伝達

です。厄介なことに、三つとも難易度は高く、苦労やリスクも伴います。

(1)意思決定の場合、マネジャーは現場に立たない分、部下より事情に疎いもの。にもかかわらず、決定を任されるのがつらいところ。

また、マネジャーのところにあがってくるのは「現場で解決できなかった案件」なので、複雑だったり深刻だったり、グレーだったりもして、悩ましい限りです。

(2)部下育成もリスキーな仕事です。部下に挑戦の機会を多く与えて成長させる…と言うのは簡単ですが、「できるかどうかわからないことをさせる」のは胆力が要ります。

マネジャーのほうこそ、大変な挑戦をしているわけです。失敗すればマネジャーの責任となりますし、部下のケアにも骨が折れるでしょう。

そして、(3)目標伝達。これこそが、最も重要な「やるべきこと」であり、かつ難しい仕事です。目標を示し、メンバーをその気にさせること、すなわち「人を動かす」ことは、リーダーシップそのものです。もしここで、会社が立てた戦略を右から左へと伝えるだけなら、マネジャーが存在する必要などありません。

マネジャーは上層部が掲げた戦略を自分で解釈し、自分が率いるチームのメンバーにわかるようにかみ砕き、チームの目標へと当てはめ、さらに個人の目標に落とし込み、最終的に、各自に腹落ちさせることが欠かせないのです。

それには、「なぜ、それが必要か?」「達成すると、どのような良いことがあるか」の二点を抑えることが大事。そのストーリーが魅力的に響けば、メンバーは目標を達成すべく動いてくれます。部下一人ひとりを観察し、各々の価値観や状況を的確につかむ力量を磨きたいところです。

 

リーダーはケーキの上の「イチゴ」を食べてはいけない

これらが「やるべきこと」だとしたら、「やってはいけないこと」は何でしょうか。それは、部下がすべき仕事を自分がやってしまうことです。

ついこの間までプレイヤーだったリーダーにとって、この禁則に従うのは大変でしょう。ここまで様々な「マネジャーの憂鬱」について話しましたが、おそらくはこの「仕事を渡したくない」という気持ちが、一番の難関です。

自分が動いて成果を出すプレイヤーと、人を動かして成果を出すマネジャー。どちらが楽しいかと問われれば、ほとんどの人はプレイヤーだと答えるでしょう。プレイヤー時代に優秀だった人なら、なおさらです。

バリバリ成果を出してきた人が、スポットライトを浴びる側から、人に当てる側に回るのは、かなり受け入れがたい状況です。つい自分で動きたくなるのは当然ですし、部下が挙げた成果を、さも自分の功績であるかのように言いたくなることもあるでしょう。

しかし、それは明らかに反則です。部下が食べるべき「ショートケーキの上のイチゴ」を、自分が食べてはいけないのです。

実は私自身も、同じ誘惑にかられたことが何度もあります。

昔、大規模な研究プロジェクトのリーダー役を担った際、現場取材やデータ分析などの「イチゴ部分」は若い研究者が持っていき、私が行なったのは進捗管理と資金調達。あのときは、いささか味気ない思いをしたものです。

その思いは最終的にどうなったかというと、現実が解決してくれました。現場まで手が回らないほどの忙しさが、幸か不幸か、誘惑を断ち切ってくれたのです。

「仕事を渡したくない」と思っている駆け出しマネジャーの方々も、就業時間には限りがある、という現実と向き合うことで、徐々に折り合いをつけていきましょう。

※『THE21』2022年4月号特集「リーダーになったら必ずやるべきこと  絶対やってはいけないこと」より

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