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決算書を読み解くプロが「非財務資料」に注目する理由

2022年03月23日 公開

近藤哲朗(「図解総研」代表理事),村上茂久(ファインディールズ代表取締役)

 

わかっている人ほど「非財務資料」に注目する理由

【近藤】それこそ、『決算書ナゾトキトレーニング』を読んでもらいたいところです。私はそれぞれの事例を深掘りしてはいないので、新鮮でした。表面的な数字だけ見ていてはわからないことも、よくわかりました。第6章のエーザイのESG投資は、私のnoteから「詳細はこちら」ってリンクを飛ばしたいくらいです。

【村上】私の本には図表があまりないので、私の方からも『会計の地図』を読んで頂きたいですね。無形資産の話は、私が書いた本以上に丁寧に解説されていますから。

【近藤】こう見ると、実は『決算書ナゾトキトレーニング』と『会計の地図』は、内容がリンクしている部分が多いんですよね。

【村上】私自身近藤さんの本を参考にしましたし、意識して書いた部分はありますからね。

【近藤】ところで、「ナゾトキ」のコンセプトはどこから出てきたんですか?

【村上】ビジネスインサイダージャパンで「会計とファイナンスで読むニュース」という企業の決算書を読み解く連載しているんですが、それを読んだ本書の担当編集者から「会計ナゾトキみたいな本、書けませんか?」と言われまして。私の文章は、「なぜ、こうなっているのでしょうか?」という掘り下げる書き方をしていたのですが、この書き方はクイズ文と言われているものです。そこが注目されたようです。

【近藤】 なるほど、面白いですね。これ、もっと図解したくなる内容ですよ。5章の「エクイティ」「デッド」「アセット」の説明も、もっとビジュアル化したくなりますね。

【村上】 新書という版型なので文章がメインなんですが、紙幅の都合上削った図版も多くあります。

また、私、文章を書くのは比較的得意なんで放っておくと、どんどん長くなっていってしまいまして、担当編集者に止められました。「これは、あくまでコンセプトはエンタメの本なんで、多少厳密性は削ってもいいので簡潔に、面白くしてください」と。

【近藤】 じゃあ、私と逆ですね。図ファーストなんで。最初に図を作った後に文章を書くんですけど、抽象化して、情報を削って、図をつくるところで満足なんですよね。

――対照的なお二人ですね。具体→抽象の思考が得意な近藤さんと、抽象→具体の思考が得意な村上さん。

ところで、村上さんは連載やスタートアップの支援をされる中で決算書に触れる機会が多いと思いますが、決算書のどんなところに注目されていますか?

【村上】そうですね。私のキャリアは銀行で約12年強、スタートアップ企業のCFOとして3年以上、その後、財務支援の事業をしています。

銀行員として企業や事業への投融資とリスク管理をしていた時、CFOとして財務管理をしていた時、財務支援をしている時、その時々で決算書を見るポイントが違いました。

具体的には、銀行員時代はデット(負債)、CFO時代はアセット(資産)、財務支援ではエクイティ(純資産)の視点です。ざっくり言うと、行員時代は企業や事業の安全性、CFO時代の今は企業の戦略、財務
支援をしている今は企業の成長性に注目しています。

また、銀行員時代には中小企業の決算書を読むことが多かったのに対し、ビジネスインサイダーで連載を始めてからは大企業の決算書を読むことが多くなりましたね。

――なるほど、近藤さんはいかがですか?

【近藤】私は、会計の仕組みに興味があるので、決算書をあまり自分から積極的に読みませんが、読む時は非財務情報を重点的に読みます。

その企業の売上やキャッシュフローは非常に大切ですが、無形資産の割合が増え、財務的な指標だけを見ても、その企業の価値が測れなくなってきていますから。 

『決算書ナゾトキトレーニング』でも、「利益だけ見ていてもわからない」という話が出てきますよね。

【村上】そうですね、メルカリを筆頭に現在成長中のスタートアップ企業やメガベンチャー企業は赤字であることが多いです。でもそこで売上だけを見ていても企業の本当の実力はわかりません。だから、非財務資料にも当たる意味があるんです。私も、非財務資料には注目しています。

※注1 GPIF…(年金積立金管理運用独立行政法人のこと。日本の公的年金のうち、厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行う)。

※注2 ステークホルダー資本主義…企業は株主の利益を第一とするべしという「株主資本主義」に対し、企業は従業員や、取引先、顧客、地域社会といったあらゆる利害関係者の利益に配慮すべきという考え方。

 

【近藤哲朗(こんどう・てつろう)】
㈱そろそろ代表取締役社長/ビジュアルシンクタンク「図解総研」代表理事

1987年東京生まれ。東京理科大学工学部建築学科卒。千葉大学大学院工学研究科建築・都市科学専攻修士課程修了。面白法人カヤックでディレクターを務め、Webサービスやアプリ開発の設計・構築に携わる。2014年、株式会社そろそろ創業。社会の課題をクリエイティブで解決するべくNPOやソーシャルビジネスの支援を行う中で、「どれだけ社会にいいことでも経済合理性がなければ活動が継続しづらいもどかしさ」を痛感し、グロービス経営大学院大学経営研究科経営専攻(MBA)に2年通学。ビジネスの構造のおもしろさに気づき、ビジネスモデルや会計の仕組みを図解し始める。 18年、海外のスタートアップから大企業までのビジネスモデルを図解した『ビジネスモデル2.0図鑑』(KADOKAWA)が9万部のベストセラーとなり、「ビジネスモデル図解」で19年度GOOD DESIGN AWARD受賞。20年、「共通言語の発明」をコンセプトに「図解総研」を設立。大手企業・研究機関・行政との共同研究を通して、環境問題や政策、共創の図解に取り組む。共著に『会計の地図』(ダイヤモンド社)『ビジネスの仕組みがわかる 図解のつくりかた』(スマート新書)がある。

【村上茂久(むらかみ・しげひさ)】
㈱ファインディールズ代表取締役/GOB Incubation Partners ㈱ 取締役CFO/iU 情報経営イノベーション専門職大学客員教授/(一社)Work Design Lab パートナー

2004 年立教大学経済学部経営学科卒業(副総代)、06年一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。同年㈱新生銀行に新卒で入行。在籍時に携わった再生可能エネルギーのプロジェクトファイナンスでは数百億円にものぼる案件の組成に携わる。他にも、証券化、不動産投資、不良債権投資、ファンド投資等に従事し、100社以上の企業や事業の投融資及び管理を手掛ける。18年よりGOB Incubation Partners ㈱のCFO として、新規事業開発の支援を行いながら、財務、法務等のバックオフィスを整える。加えて、スタートアップ企業等のファイナンス支援も行う。21 年1 月に財務コンサルティング等を行う㈱ファインディールズを創業。他にも11 年に立ち上げた経済と金融の読書会等を行うFinancial Education & Design(FED)では、事務局長としてこれまでに累計300 回以上のイベントの設計、企画及び運用を手掛けている。日経CNBC「朝エクスプレス」に不定期のコメンテーターとして出演、web メディアの「ビジネスインサイダー」にて「会計とファイナンスで読むニュース」を連載するなど、「理論と実務の架け橋」を自身の人生におけるコンセプトとして、実務で得られた知見を言語化し、研究に裏打ちされた知識を発信している。

※注1 ステークホルダー資本主義…企業は株主の利益を第一とするべしという「株主資本主義」に対し、企業は従業員や、取引先、顧客、地域社会といったあらゆる利害関係者の利益に配慮すべきという考え方。

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