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「読んで面白い決算書」の注目企業3選

2022年03月28日 公開
2022年03月28日 更新

近藤哲朗(「図解総研」代表理事),村上茂久(ファインディールズ代表取締役)

近藤哲朗&村上茂久

経営者や投資家、銀行員やトレーダー…、立場や職種が違えば、決算書で注目すべきファクトや数字は異なる。その理由や背景を紐解けば、その人のビジネスに対する価値観が見えてくる。

そこで、複雑な情報を図でひもとくビジュアルシンクタンク「図解総研」代表理事である近藤哲朗氏と、理論と実務の架け橋として会計とファイナンスの情報を発信する村上茂久氏に、決算書の注目ポイントから、お互いのビジネス観を深掘りしてもらった。本稿では、様々な企業の決算書を読む中で、2人が面白いと感じる企業について語ってもらった。

 

Netflixの制作費はオリンピック予算レベル!?

――様々な企業の決算書を読んでいると思われますが、2人が面白いと感じる企業はありますか。

【村上】Netflixがすごく面白いですね。

まず、数字のインパクトがすごいです。日本で大ヒットした『鬼滅の刃』が、公開220日で約2900万人の動員数でしたが、Netflixは全世界に2億人のユーザーがいる。すなわち、Netflixは2億人のユーザーにアプローチできるということです。実際、韓国で制作された『イカゲーム』は公開28日間で全世界で1億4200万世帯が視聴しています。

もう一つは、Netflixの戦略です。

Netflix は、年間で1.5兆円前後の制作費をかけているんですね。もはや東京オリンピックの予算並みです。ちなみに、日本テレビの年間制作費は900億円前後ですから、文字通り桁が違います。クリエイティブは金額がすべてではないですが、Netflixでは監督が自由に費用を使える制作体制になっています。

金銭的な制約が少ない分、制作に集中できるのでしょう。実際、Netflixのコンテンツはクオリティが高いということで評判が良いです。私もいくつかNetflixのドキュメンタリー番組を見ましたが、とてもおもしろかったです。

このようにNetflixはコンテンツに1.5兆円前後の投資をしているわけなんですが、コンテンツ制作費を控除した実質的な営業キャッシュフローは1.2兆円弱でした(2019年)。ですから、財務戦略としては、差額を借り入れや社債で賄いながら、営業キャッシュフロー以上のコンテンツ制作をしていたというわけです。

「ディズニーplus」も入るけどNetflixも入る。そんな人も多いと思いますが、それは「Netflixでしか見られないクオリティの高いコンテンツだから」という理由で加入する人も少なくないはずです。Netflixは負債を活用してまで、多額のコンテンツ投資を進めてきましたが、これは2億人もの有料会員を獲得できているという点で財務戦略としてうまくいっていると言えるでしょう。

 

銀行という名はついているが融資はしない

――近藤さんは、いかがですか?

【近藤】私は、セブン銀行に注目しています。

古今東西、お金が集まる場所や、お金を大量に扱う機関は重要です。お金の流れをつかむ仕事は世の中全体に影響力がとても大きいので、特にフィンテックが発達する中、銀行が社会でどういった役割を果たすのか。その金融的な機能が気になっています。

そもそも、銀行とは何なのか。預金を集め、集めた預金を貸付け融資する。そして、融資額よりもリターンの方が大きいからその差分が儲けになる。利ざやから、さらなる利ざやを稼ぐことが基本的なビジネスモデルです。

でも、セブン銀行の例はちょっと違います。銀行と名がついているけれども融資はしない。じゃあ何をしているのか?ひと言で言えば「銀行の代理業」ですね。ATMの受入手数料を顧客からもらうのではなく、銀行からもらう。ユーザーは、基本的に手数料を払うことなく使用できます。
「そういうビジネスモデルもアリなんだ!」と思いました。

【村上】私も、セブン銀行はとても面白いと思っています。古巣の新生銀行は、自前のATMを全てやめてしまい、新日本橋にある本店ですらATMは、自前ではなくセブン銀行のものです。管理コストがかかることを考えれば、自分たちがATMを設置して顧客から手数料を徴収するよりも、安かったんでしょうね。

【近藤】でも、これも現金が機能しているからこそ成り立つビジネスモデルなんですよね。

【村上】近藤さんらしい視点ですね。

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