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文系ミドルの人生を一変させる「統計知識」

2022年04月05日 公開
2022年04月07日 更新

冨山和彦(経営共創基盤[IGPI]グループ会長/日本共創プラットフォーム[JPiX]代表取締役社長)

 

文系ミドルの6~7割は、バイリンガル人材になれる

――ファクトとロジックに強い理系人材が、この役割を担えない理由は何でしょうか。

【冨山】理系で数学的、統計的なことを専門にしている人は、それぞれの固有のビジネスの現場を知る機会も時間もありません。ですから、統計数理を深く理解していても、分析結果を実際のビジネスのストーリーに結びつける、ビジネスの言語論理に変換することができません。

また、数理解析をしていることに変わりはないので、物理の研究者が、ある日突然、金融の世界に行くこともあります。基本的に引く手あまたの人材なので、固有のビジネスに留まって、そのビジネスに精通するインセンティブがないのです。

したがって、固有のビジネスのネイティブである文系ミドルが、最低限の統計知識を身につけてバイリンガルになるほうが合理的なのです。

――文系ミドルの中には尻込みしてしまう人もいそうです。

【冨山】日本は高校生ぐらいで文理を峻別してしまうから文理バイリンガルが少ない。しかし、生来、文系の人ばかりではありません。日本の子供たちの算数の学力が世界的に見て高いのは周知の通りです。

理系的素養がないわけではないのですから、努力すれば文系でも統計学の基礎は理解できます。私の個人的感覚で言えば、文系ミドルの6~7割は、ここで言うバイリンガルになれると思います。

――バイリンガル人材になるために身につけるべき必要最低限の知識とは、どのようなものですか。

【冨山】少なくとも高校数学レベルの統計知識は必要です。もしそれがないなら勉強し直したほうがよいでしょう。ビジネススクールでも統計の基礎は学びます。

「標準偏差」や「分散」「分布」「回帰分析」などの基本的な用語や、「決定係数」を「アールスクエア」と言いますが、この程度の用語の意味は最低限理解しておく必要があります。でないと、データ分析後の数値を見ても何も読み取れませんし、場合によっては、データの分析結果にだまされてしまう可能性もあるからです。

先ほどの石油価格とゴルフのスコアのように「たまたま」なのか、論理的帰結なのかを見極められることが大事になります。

 

「仮説→実行→データ分析」を現場ミドルは素早く繰り返せ

――文系ミドルがバイリンガル人材になることが求められる理由は、他にもありますか。

【冨山】データの分析結果を読み解いて、言語論理的にビジネスのストーリーを組み立てたとしても、それは1つの仮説に過ぎません。実際に仮説を実行してみて、その実行データをまた分析して統計で検証する。この一連の流れを素早く何度も何度も繰り返すのがアジャイル経営です。

自動車などハードの開発は何年もかかり、アジャイル経営になじみにくいのですが、ソフトウエア開発はすぐに変更可能なので、アジャイル経営が重要になります。

「こうかもな」と思ったら、すぐにそれを試してみる。ライバル企業も同様にすぐに改善手や新手を打ってくるので、こちらも統計数値を見ながら、どんどん手を変え、品を変えて手を打つ必要があり、こうなるとアジリティ(機敏さ)の勝負になります。

今後は、自動車をはじめとしたハードもネットでつながり、ソフト同様に頻繁にアップデートする時代になります。つまり、アジャイルにどんどん変わることの重要性が増すのです。

――しかし、日本企業は、その組織構造も、組織能力も、データを活用してあらゆることをアジャイルに変異変容させていくモデルに合っていないように思われます。

【冨山】日本の大企業の多くがハード大量生産型モデルの重層的組織になっているため、現場の最前線の人間が競争市場の変化を敏感に察知して、それに応じた大胆な手をすぐに打つことは難しい。

いちいち本社にお伺いを立てて決めてもらっていたのでは間に合いませんし、そもそも本社の人間は現場で起きている変化を見ていないので、効果的な判断や意思決定をできるはずがないのです。

つまり、現場のリーダーである文系ミドルが、現場とデータの分析結果の両方をつぶさに見て、アジャイルに次々と意思決定をしていかなければ、これからのビジネスでは勝てないということです。

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データの分析結果をもとに意思決定するときの注意点 >

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