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デジタルアートの可能性...「NFT購入者3000人によるコミュニティ」が活発な理由

2022年07月07日 公開

高尾俊介(甲南女子大学文学部メディア表現学科講師/クリエイティブコーダー)

 

ファンコミュニティでウクライナへの寄付活動も

NFTアートの完売後、購入者から「コミュニティがほしい」と要望があり、Discord(全世界で推定約3億人のユーザーを抱えるメッセージ&ボイスチャットアプリ)上に専用のチャンネルを立ち上げました。

現在、チャンネルの参加者数は3000人以上に達しています。参加者の中には、本作品のコードを使って二次創作を行なう人もいます。そのためのコンテストまで開催されており、毎回大盛り上がり。

その他、コーディングについて学ぶ場には、私自身もときどきコメントするようにしています。

3月には、ロシアに侵攻されたウクライナへの寄付活動も始まりました。作品の所有者は所有作品を「ウクライナカラー」に変えたNFTアートを発行することを通じて、好きな金額を寄付できるのです。このとき新たに生成したNFTも、当然売買の対象になります。

このプロジェクトを経て、私はNFTの醍醐味は「つながり」をつくれることにある、と思うようになりました。

NFTは、データに価値を与え、取引を可能にするだけの道具にとどまりません。制作者と所有者が共にプロジェクトの「当事者」として並列につながり、協力して活動するという活発なコミュニティの作成を、可能にするものと捉えています。

そう考えると、NFTは企業や自治体とも相性がいいかもしれません。実際、新潟県長岡市の山古志地域がすでにNFTを発行しています。

山古志は、新潟県中越地震で被災し、いまだ存続の危機にある地域です。NFTの購入者は、そんな山古志のデジタル住民となり、現実の住民と共に地域振興に取り組む権利を得ることができます。

 

二次収益で財団運営...これからのNFTアートを導くために

アートの場合、二次売買で生じる収益も、一部は元々の制作者に入ってきます。今後、私の手元に入る収益は、今年3月に設立した一般財団法人の活動へと充てていく予定です。

この財団は、若手アーティストの支援の他、NFT誕生以前からのデジタルアートの歴史の整理・体系化を主導するための組織となります。

NFTアートは、一度売って終わりではないのです。二次売買が続く限り、制作者には責任が伴います。活動が自分の来歴としてブロックチェーン上に連綿と残っていきますから、下手なことはできません。

企業や自治体が活用する場合も同じでしょう。収益をどう使うか、コミュニティとどう関わるか。よく考えて、その都度適切な選択をすることが常に求められると実感しています。

自然と前向きな行動を考えるようになったな、とも思いますね。

【高尾俊介(甲南女子大学文学部メディア表現学科講師/クリエイティブコーダー)】
1981年、熊本県出身。2019年、プログラミングを日々の生活と結びつける活動としてデイリーコーディングを提唱し、現在まで実践を続ける。21年、NFTアートプロジェクト「Generativemasks」を発表。発売から2時間あまりで1万点を完売し、以後日本のNFTアートの先駆者として、様々な発信を行なっている。第25回文化庁メディア芸術祭アート部門選考委員。

(※『THE21』2022年5月号第2特集「先駆者たちに聞く! メタバース・NFTは世界をどう変えるのか」より)

 

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