人生100年時代に健康はゴールではない...企業が着目すべき「ウェルビーイング」

高齢化が進む日本では「健康」をテーマにした商品開発が盛んだ。しかし、マーケッターとしてキシリトールガムなどを大ヒットさせた藤田康人氏は、それだけでは新しい時代の変化にはついていけないと語る。藤田氏の最新刊『ウェルビーイングビジネスの教科書』によると、人生100年時代は、体の健康に加え「幸福」がビジネスのキーワードだという。

「100歳まで生きる」人生設計が求められる時代

「人生100年時代」そんな言葉をよく耳にするようになりました。みなさんは、100歳まで長生きできるとしたらうれしいですか? それとも、100歳まで生きるリスクを考えてしまいますか?

100歳まで生きる時間をどう有意義に使うか前向きに考える人もいれば、100年という長いスパンを持て余してしまう人もいるかもしれません。

高齢ということで、健康をはじめとする様々なリスクが頭に浮かんで不安を覚える人も多いでしょう。リスクを考えてしまう人であっても、できる限り充実した人生にしたいという想いは持っていると思います。

100年の人生をどうとらえるか。その違いで、ライフプランの設計は大きく変わってきます。

人生を100年という単位でとらえると、従来のライフプランだった「学ぶ」「働く」「引退」という3つのステージが大きく変容する可能性がある。それは、それぞれのステージを少しずつ延長する単純な変化では対応できないのです。

つまり、100年生きることを前提とすると、これまでの生き方や働き方を考え直さなければいけないということです。65歳で定年を迎えたとしても、それからまだ3分の1も人生があるわけですから。

実際、日本では、2007年に生まれた子どもの半数は107歳より長く生きる、という海外の研究結果があります。

注目を集めている「ウェルビーイング」とは

人生100年と考えた時に、真っ先に頭に思い浮かぶのは健康のことでしょう。いわゆる、寝たきりになってしまっては、いくら長生きしても充実した人生と言えるかどうか。

「健康寿命」という言葉を最近、よく耳にするようになりました。医療・介護に依存せずに自分の力で生活できる期間のことで、できるだけ長い方がいいのは間違いありません。

実は近年、ライフサイエンスの発展とともに、健康なままで100年生きられることが、現実味を帯びてきました。ライフサイエンスでは、老化を「病気」と捉えています。

つまり、老化を「治療」できるということです。ラットを使った動物実験では40歳の見栄えで100歳まで生きることも可能だという研究結果もあります。細胞を若返らせることも可能な時代になってきたということです。

そんな中、注目を集めている概念があります。それが「ウェルビーイング」です。

「ウェルビーイングって最近よく聞くけど、詳しくはよくわからないんだよね」 こんな思いを抱いている方は珍しくないでしょう。

ウェルビーイングとは「体も心も元気で、社会との関係も良好である状態」のことを言います。 無理をせず 「自分らしく、心も体も健やかに」 生きることに重きをおく 新たな人生観です。いわば、新しい幸せの形です。

ひと昔前の幸せが「地位」や「お金」に象徴されるような 欲望の充足にありました。しかし、それでは夜遅くまで働いてストレスを溜めたり、お金のためにプライベートを犠牲にしたり、あるいは暴飲暴食で体をこわす人もいたことでしょう。

100年を幸せに生きるには、欲望の充足に代表されるような短期的な快楽ではなく、ストレスフリーで持続可能な幸せを求める必要があります。体の健康に加え、心の充足も求められるからです。

それは、自分らしさを軸にして、大切な家族や友人と過ごす時間を大切にしたり、好きなことを追求したりする人生です。むしろ「自分らしく生きるために、健康になる」と考えた方がいいかもしれません。こうした価値観は、アメリカやヨーロッパではスタンダードなものになりつつあります。

日本でも広がり始めていて、2021年は日本におけるウェルビーイング元年と言われています。同年6月には政府から経済・財政運営の指針として「政府の各種の基本計画等について、ウェルビーイングに関するKPIを設置する」ことがうたわれました。また、7月には、ウェルビーイングに関する関係省庁連絡会議も設定されています。

私は、この価値観は日本人のライフスタイルにもいずれ根付くと思っています。