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子どもの貧困に救いはあるか? 知られざるその実態(鈴木大介)

2015年02月10日 公開

鈴木大介(ルポライター),オバタカズユキ(フリーライター)

日本は格差社会ではなく階層社会

――格差社会という言葉だけでは捉えられない新しい価値観が生まれているようですね。

鈴木 知られざる若者の実態は次々と表出しています。でも、日本が格差社会だと私は思いません。新書を出していろいろな読者の方からリアクションをいただきながら、この国は格差社会ではなく、階層社会だったのかと実感します。

私の印象をざっくり言葉にすれば、まず上から、高所得層、プチセレブ層、中流層がいて、下に低所得層と貧困層、そのまた下にもっとも見えにくい最貧困層がいる。

各階層のあいだには厚い壁が存在し、それが互いの世界を知ることを困難にしている。私は最貧困層の実態を著しましたが、高所得層やプチセレブ層の方から「先進国の日本でそんな酷い生活をする人がいるはずがない」といわれてしまうことがあります。

セックスワークの世界でしか生きていけない女性のリアリティーが、どうしても伝わらない。「国民皆保険で、生活保護制度もあって、中学までは義務教育が保障されているこの国にいて、やむなく最貧困層に追いやられるなどありえない」と思うようですが、現実には「ありえる」のです。

――中流層以下の反応はどうですか。

鈴木 中流層と思われる読者からは、「すごい。こういう人たちがいたとは驚いた」といった感想をよくいただきます。それまで不可視だった存在を初めて知ってショックを受けるわけですが、その衝撃は原田さんの本でマイルドヤンキーを知った驚きと、もしかしたらそんなに変わらないのかもしれない。

あまりにも自分の生活空間と違うところで生きている他者という意味で、とくに大都市部に住む中流層にとっては、最貧困層もマイルドヤンキーも「想像を超えた存在」に思えるのです。

低所得層の人たちも最下層のことは見えていません。『最貧困女子』を刊行していい反応をもらえたなと思ったのが、風俗の世界でセックスワークの女の子たちを雇う側にいた男性の感想です。

「俺が現役だったころも鈴木さんの本に書いてあるような子たちはいたけど、そんなに苦しんでいるとは認識してなかった。『こいつ、ブスだし、だめでしょ』など酷い言葉を使ったりしたことを、すごく後悔してる」と。

――同じ風俗の世界で働いていても、最貧困層は理解されていないのですか。

鈴木 理解されていません。階層が違うとわかり合うことはきわめて難しいのです。

たとえ低所得でも、地縁や血縁、地域の支援があれば、貧困までの状態にはなりません。年越し派遣村を率いるなど反貧困活動をなさっている湯浅誠さんたちが言い続けてきたことですが、貧乏と貧困は別物なのです。貧乏はたんに低所得であること。低所得でも家族や地域との関係性がよくて、助け合って生きていけるのならけっして不幸ではありません。

対して貧困は、家族、友人、地域などあらゆる人間関係を失い、もう立ち上がれないほど精神的に弱っている状態です。その辛さは満たされている者にはわからない。

たとえば、地縁や血縁を守ることに力を注いでいるマイルドヤンキーからすれば、「その子(貧困層)の努力が足りないからだ」と見えるでしょう。ありがちで、まったく現実とそぐわない自己責任論です。

それでも貧困層は、制度による支援の可能性が残されているだけマシともいえます。その人の貧困状態がホームレスという形で見えたなら、行政や反貧困系NPOなどの支援対象になります。

あるいは伝統的に、貧困は創価学会と共産党といった一部の組織が支えようとしてきました。誰が見ても明らかな貧困に対しては、何らかの支援の手が伸びるのです。

一方、そうした支援者の視野からも外れてしまうのが最貧困層です。セックスワークや裏稼業でギリギリ生活できていて、身も心もボロボロの人たち。この層は差別の対象にされても、支援の対象にはなりにくい。理解者も現れません。

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