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[格差社会]どん底の貧困に救いはあるか

2015年02月10日 公開

鈴木大介(ルポライター)

 

悲惨なセックスワーカーの最下層

 ――セックスワークをしているから、差別され、支援の外側に追いやられてしまうのですか。

 鈴木 一概にそうともいえません。なぜならセックスワークのなかにも階層があるからです。

 これはマイルドヤンキー的な低所得層に属すると思うのですが、最近は「地方週一デリヘル嬢」が増えています。地方都市に住んでいて、昼は一般的な仕事をしていて週に1~3回だけ性風俗業でバイトをする女性たちのことです。彼女たちは昼の正職の給料が安すぎて「やむをえず」風俗に副収入を求めているのではありません。むしろ、そうしたバイトで副収入を得ている自分を誇りに思っている節さえあります。

 彼女たちはまず、雑誌の読者モデルでも通用しそうな雰囲気と容姿に恵まれています。そのなかでも店でトップを競う女の子は、ファッション誌でメイクの勉強をし、エステやジムで身体をシェイプアップし、「女を磨く」ことに励んでいる。彼女たちが本番行為なしでも実入りのいいセックスワークをどんどん取っていきます。

 そうした子たちが一番上の階層にいるセックスワークの世界で、容姿がダメ、メンタルが不安定、いわゆる愛されない不細工たちは、信じられないくらい安い値段の売春ワークを繰り返しています。これがセックスワークのなかでもっとも可視化されていない最貧困層女子の実態です。階層社会が進行していくなかで、この問題はより拡大していくでしょう。

 ――愛されない不細工、とはどういうことでしょう。

 鈴木 同じ不細工でも性格が良かったり、「地方週一デリヘル嬢」とも地元の仲間同士で楽しく遊んでいる子は、店のトップにはなれなくても、それなりに働けるナイトワークがあります。でも、不細工でかつ他人から愛されにくい性格の持ち主、メンタルが不安定で、いわゆる面倒くさいタイプの子たちは、ますます自分のメンタルを壊してしまう非常に過酷な売春ワークにしかありつけません。

 最下層のセックスワーカーたちは、そのほとんどが虐待などの悲惨な生い立ちを抱えています。親の暴力や育児放棄が酷く、少女時代に家出をした子もたくさんいます。そして、援デリ(援助交際デリバリー)組織などに捕捉され、毎日のように売春を続け、少しお金ができたころに身体やメンタルを壊して失踪する。食えなくなるとまた同じ売春の場に戻ってくる。そうした悪循環に組み込まれ、身も心もボロボロになってしまうわけです。

 ――そのなかにはシングルマザーもいると著書では紹介されています。

 鈴木 出会い系サイトで売春をするシングルマザーたちは、私が最貧困女子を取材してきたなかでも、圧倒的に不自由で、救いの光がどこにあるのかわからない「どん底の貧困」にあった人びとです。

 10代で家出をしてセックスワークの世界に取り込まれてしまった少女たちのなかにも、滅茶苦茶な状況で働いている子がたくさんいます。けれども、どんなにひどい環境に置かれていても、目はキラキラ輝いているんです。彼女たちは、自分を傷つけてきた家から飛び出し、売春ワークでまた新たな性被害を受けながらも、自力で自由を手にしているからだと思います。だから、苦難も笑って撥ね返す力強さがある。

 それと比べて、出会い系シングルマザーたちは、自分を傷つけるものを撥ね返す余力がない。ただただ子供を手放したくない、子供と一緒に暮らせていることだけを支えに、月に数万~十数万円の昼の仕事をこなし、残ったわずかな体力でどんな目に遭うかもわからない売春の現場へ赴いているのです。

 

活用すべき最貧困層の「手」

 ――生活保護がなぜ受けられないのか、福祉行政は何をしているのか、と憤りを覚えます。

 鈴木 出会い系シングルマザーの場合、当人が行政の支援を拒否する側面もあります。彼女らにとっての最大の恐怖は、自分の子供を児童養護施設などに「奪われ」てしまうことだからです。「私自身が施設で育ったから、どれだけ寂しいかよくわかってる」と話すシングルマザーもいました。

 とても難しい問題だと思うのは、彼女たちの共通点にきわめて強い恋愛依存体質があることです。売春相手の男は「客」であるよりも、その場しのぎでも生活を支えてくれる「サポーター」に近い感覚をもっていたりする。そのなかから本当の恋愛に発展できる相手が見つかることを期待し、一縷の希望を抱いていたりもする。それほどまで孤独で辛い思いをしているのです。

 ――そうだとしても、そのまま社会が知らぬ存ぜぬで放置していい問題とは思えません。

 鈴木 もちろんです。行政や国の視点からこの問題を考えるなら、これからの日本の生産人口はどんどん減っていきます。遠からず、外国人労働者を受け入れなければやっていけない時代になるでしょう。そんな国にあって、最貧困層の「手」を使わないのは大きな社会的損失です。働き手、成り手の「手」ですね。前に「産む機械」と最低の表現をした政治家がいましたが、最貧困女子は生産人口を増やす「産み手」になるかもしれない。彼女たちは国にとって重要な資源です。自国にある資源は最大限に有効活用すべきじゃないですか。

 ――彼女たちにはどんな仕事が向いているのでしょう。

 鈴木 まず、女性がはるかに男性よりも優れているといえる職業領域に、対人支援職がありますよね。セックスワークは酷い環境かもしれませんが、彼女たちに多くの考える機会を与えます。人の気持ちが人一倍理解できる人間を育てるのです。他者に対する身体的距離感の許容力も非常に高いので、たとえば介護や看護、それこそ成り手がなくて困っている高齢者支援職などに就けば、驚くほど適性を発揮する可能性がある。介護職員の能力の低下が指摘されてもいますが、それは職業教育が足りないからです。労働時間に対する賃金が安すぎる問題もあります。

 きちんとした教育を受ける機会と、まっとうな労働対価を得られるガイドラインがあれば、最貧困女子も高齢者支援職で十分に働けるはずです。

 ――家庭環境に恵まれていない子供がセックスワークの世界に取り込まれることの回避策として、鈴木さんは学童保育の改革を提起しています。

 鈴木 放課後居場所ケアの視点で学童保育をめぐる議論は活発にされていますが、私にはまったくズレた話に思えます。7時間目、8時間目の発想で授業時間の延長線上に学童保育が位置付けられており、学校のように子供を管理しようとする。それでは本当に居場所が必要な子供たちのニーズと合いません。学校が終わって子供たちが行きたい場所がゲームセンターやネットカフェであるなら、そこに学童保育機能をもたせるような方向性こそが、当事者の児童が求めるものではないですか。

 それと親がご飯をつくってくれなくても温かい食事がとれる。親の暴力が激しいときは夜中でも身を寄せることができる。求められているのは、そんな学童保育です。心身を休ませてくれる空間です。

 ――ほかに、最貧困層の再生産を食い止めるには?

 鈴木 進めてほしいと思うのは、小学校の先生やスクールカウンセラーと児相(児童相談所)の職員との連携です。なんだかんだいって子供の様子をよく見ている地域の大人は学校の先生ですから、「この子の様子がおかしい」と気付いたら、すぐに連絡ができる関係にあってほしい。

 また、生保(生活保護)のケースワーカーも在宅訪問をするので、問題を抱える児童の早期発見者となりえます。生保と児相のパイプづくりも重要です。

 なにより、たとえ少女やその母親がセックスワークに関わっているとしても、社会が彼女らを否定せず、その存在を認めることが肝心です。自己責任論では解決できない当事者たちの実態を知る人が、少しでも増えていくことを願います。

 

鈴木大介(すずき・だいすけ)ルポライター 

1973年、千葉県生まれ。「犯罪現場の貧困問題」をテーマに裏社会・触法少年少女らの 生きる現場を中心に取材活動を続ける。
著書に『家のない少女たち』(宝島社)、『出会い系のシングルマザーたち』(朝日新聞出版)。昨年、『最貧困女子』(幻冬舎新書)を発刊。


<掲載誌紹介>

2015年3月号

 韓国系団体が慰安婦小説を全米の図書館に送付するという。「強制連行」し、「性奴隷」にしたと描写し、そのうえナチスと旧日本軍、ホロコーストと慰安婦問題を同じだと言い募る。日本を貶め、誤った歴史認識を世界に広めたいのだろう。
 3月号の総力特集は、いつまでも交わることのない日韓「歴史戦争」。櫻井よしこ氏と田原総一朗氏は、朝日新聞の「慰安婦報道検証 第三者委員会」の報告書について激論。産経新聞の黒田勝弘氏は、韓国の「対日戦勝70年」の記念行事に疑問を呈する。また、「反日プロパガンダ」に対して、反撃すべきだと説くのは弁護士のケント・ギルバート氏だ。さらに、生き証人として99歳の元朝鮮総督府官吏の西川清氏にご登場いただいた。ご自身の経験から「日本の軍や官が慰安婦を集めたことはなかった」と断言し、昭和10年当時は「朝鮮人と日本人が仲良く桜の下で酒を酌み交わすほど平穏」だったと証言する。日韓の歴史認識が交わる日は来るのだろうか。
 第二特集は、「ピケティと格差社会」と題し、日本経済の現状と処方箋について考えた。さらに、緊急特集として「イスラムテロの脅威」を取りあげ、イスラム過激派についてジャーナリストの丸谷元人氏に解説していただいた。
 巻頭の対談では、外交の専門家である宮家邦彦氏と佐藤優氏が、対ロシア、韓国、中国を中心にユーラシアの地政学の重要性を説いた。
 ぜひご一読いただきたい。

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