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現場力が活きる「ライト・フットプリント(LFP)経営」とは



2015年02月23日 公開

遠藤功(ローランド・ベルガー日本法人会長)

『Voice』2015年2月号より》

Voice 2015年2月号

■「足跡」が残らない経営

 ――「現場力」は世界最先端の経営戦略である

 

世界の新潮流「VUCA」

 バブル崩壊から20年がたち、日本では欧米を手本に新しい経営のあり方が論じられてきた。ところが近年、グローバル化が進展し、日本企業が積極的に海外進出する一方、中国リスクや北米のリコール問題など、想定外の事態に見舞われることも増えてきた。今後、日本企業は何を指針に、自らの経営課題を克服すべきなのだろうか。本稿では最新の経営環境とともに、日本と欧米の経営のあり方を問い直したい。

 いま、欧米の経営者のあいだで注目されているキーワードがある。「VUCA」である。

 Volatility(不安定)
 Uncertainty(不確実)
 Complexity(複雑)
 Ambiguity(曖昧模糊)

 以上の頭文字4つをとった略語で、欧米では認識が広がりつつある。たとえばユニリーバ(イギリスとオランダに本拠をもつ家庭用品メーカー)の最新のアニュアルレポートで、CEOのポール・ポルマン氏が、市場の現状は「VUCAワールド」であり、それにいかに対応するかが成長の鍵だ、と述べている。

 VUCAとは元来、軍事用語である。1990年代にアメリカで生まれ、世界の不安定性を表す言葉として、やがて他の分野にも広がるようになった。

 世界の不安定性については、2008年のリーマン・ショックがもたらした金融リスクや開発途上国における人口爆発、先進国の少子高齢化など、マクロレベルで見たリスクが年々、増大している。中東やウクライナにおける武力衝突やアラブ諸国の政情不安定という地政学上のリスク、異常気象や災害のリスク、エボラ出血熱などの疫学的リスクも高い。ICT(情報通信技術)を中心に次々と生まれるイノベーションもまた、VUCAワールドの変化を加速させる要因となる。

 VUCAワールドのなかで企業を取り巻く環境も、20年前とは一変している。より不安定で変化が激しく、先行きが読めず不確実性が高い。かつては有望と思われた市場や事業、技術も短期間で成熟し、あっという間に陳腐化してしまう。

 最近の例では、一世を風靡した韓国・サムスン製のスマートフォンが、中国の小米の激安スマホに駆逐されようとしている。さらに遡れば、シャープの液晶テレビやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のミクシィのように、たとえ優れた商品、ビジネスモデルでも瞬時に「レッド・オーシャン(赤い海=血で血を洗うような競争領域)化」してしまう。

 世界がVUCAワールドに突入した原因はいくつか挙げられる。だが、おそらく最大の要因の一つは中国の存在であろう。いまや中国は市場としても生産拠点としても無視できない存在だが、この国が抱えるカントリーリスクはけっして低くない。社会主義市場経済は不安定かつ不確実で、ビジネスのルールは複雑で曖昧模糊としている。近年は経済成長に陰りが見えはじめ、さらに尖閣諸島をめぐる問題を機に日中関係が冷え込んだことから、中国市場に対する慎重論が出はじめている。

 一言でいって、現代の企業を取り巻く環境は「乱気流」のなかにある。一昔前も乱気流はあった。しかし、以前の乱気流は一過性のものだったが、近年ではそれが常態化し、場合によっては10年や20年、30年と続く。経営者はいつ終わるとも知れない不安と混乱のなかで、企業の舵取りを務めなければならない。だが、言い換えれば「乱気流の時代」において、これまでの安定期に勝者だった企業が勝つとは限らない。VUCAワールドという経営環境に適合した「新しい勝者」が生まれる可能性がある、ということだ。

 

ライト・フットプリント経営とは何か

 では、VUCAワールドの環境に最も適した経営とは何か。私が注目するのは「ライト・フットプリント(LFP)経営」である。「ライト・フットプリント(Light Footprint)」とは「薄い/軽い足跡」を意味する。目まぐるしく変わる環境に適応するため「足跡」を残さず、俊敏かつ身軽に、臨機応変な経営をすることである。

 もともとライト・フットプリントとは、オバマ政権の軍事戦略を示す言葉である。前政権のジョージ・W・ブッシュ大統領は中東の民主化を目標に、アフガニスタンやイラクに米軍を派遣、駐留し、中東地域に深く根を下ろした。対照的に、オバマ大統領の場合は中東に深入りせず、「足跡」を残さない戦略である。

 2001年のアフガニスタン紛争、2003年のイラク戦争以来、アルカイダのようなテロ組織との非対称戦に対抗すべく、アメリカは従来の大規模な地上軍を投入する戦闘は避け、少数精鋭からなる特殊部隊や、無人航空機(ドローン)など先端技術を活用する方針にシフトした。アルカイダの指導者だったビンラディンの暗殺はその好例だとされている。さらに、アメリカ軍はイラクから撤退したが、中東への関与をやめたわけではない。関係諸国との連携を通じて、いつでも影響力を行使する態勢を構築している。この発想が近年、経営にも応用されつつある。

 たとえば中国リスクへの対処を考えるうえで、ライト・フットプリントはたいへん示唆に富む経営戦略である。中国市場の存在の大きさに鑑みて、日本が中国から撤退することは現実的ではない。かといって、過度に中国市場に依存するのはリスクが高い。そこで、オバマ政権が対テロ特殊部隊を編制したように、日本企業が少数精鋭のチーム(モジュール)をつくり、現地に赴いて「足跡」が残らない提携関係を構築することで、リスクとリターンを均衡させることができる。ライト・フットプリント経営こそ、グローバル時代のVUCA環境に適した戦略といえるだろう。

 欧州系最大の戦略コンサルティングファームであるローランド・ベルガーのグローバルCEOを務めるシャレドア・ブエは、著書『ライト・フットプリント経営(Light Footprint Management: Leadership in Times of Change)』のなかで、ライト・フットプリント経営を成功させる条件として以下の4つを挙げている。

 (1)自律分散(Decentralized):現場において自律的に判断、意思決定を行ない、迅速に行動するチーム(モジュール)を形成する。

 (2)協働協創(Collaborative):創造性を高め、低コストを実現するための社内外における戦略的パートナーシップを形成する。

 (3)相互信頼(Trust):より迅速に、より効果的に任務を遂行するための基盤としての相互信頼を確立する。

 (4)隠密行動(Secrecy):静かに、深く潜行し、任務の遂行に備え、遂行の際には相手の準備が整わないあいだに一気呵成に決着をつける。

 VUCAワールドという乱気流のなかで効果的、効率的な経営を行なうために重要なのは、これまで以上に素早く、臨機応変に変化に対応する組織をつくることである、とブエは強調する。

 

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