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「女子力男子」の消費力...女子化する男子の実態を徹底分析!

2015年03月10日 公開
2023年02月01日 更新

原田曜平(博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー)

 

中国の草食系男子「小男人」

さらに海外に目を転じると、経済的に成熟し始めたいまの中国の大都市には、日本のバブル崩壊後に見られたような調和型社会の雰囲気が漂います。

たしかに経済の発展途上にある中国郊外の地域は依然として男性主流の社会で、男性の喫煙率も高く、女性と食事に行けば男性がすべておごります。

しかし一方で、成熟期のステージに入った上海では、生活水準も高く、男性も徹夜をして必死に働いて稼ぐよりも、まったり生きようとするメンタリティ状態になります。

最近の中国では草食男子を意味する「小男人」という言葉が使われています。また90年代生まれの大学生で構成される「偽娘団」と呼ばれる女装男子集団も登場するなど、全体的に見た目が「きれいな」中国人男性が増えた印象があります。

この傾向は中国だけでなく、韓国にも当てはまります。一見すると、韓流ドラマには「肉食系」の男子が多く登場しますし、サムスンや現代に勤める男性は非常にアグレッシブに映ります。

3カ国語を駆使して仕事をバリバリこなし、なかには何人も愛人を囲う人もいる。それは一部のエリート像を拡大したイメージにすぎません。韓国人男子のなかにも日本の女子力男子のように、細身の服を身に着け、女性用の化粧品で肌の手入れをするような男子がいるのです。

 

「仕方なく」女性向け商品を購入する男子たち

一方、マーケット的な視点では、今後はマイルドヤンキーと同様に女子力男子も日本経済を潤す層になると期待しています。

マイルドヤンキーは車やたばこなど男性型商品にお金を使い、クラシカルな消費をする傾向があります。対して女子力男子の場合、消費金額は同じように多いのですが、バレンタインデーにチョコを作ったり、自分の肌に合った化粧水を買うなど「美」の方向にお金を使う傾向があります。

美容メーカーは、女子力男子の消費傾向をもっと正確に把握するべきです。企業のマーケティング担当であれば、女性用シャンプーを使用したり、眉毛を整える小綺麗な男性が増えていることぐらいは当然、知っているでしょう。

しかし残念なことに、マーケティング調査に莫大なコストを掛けているメーカーでも見えていない面が多い。

たとえば以前、ある生活用品メーカーの商品開発部の方から「女性用のシャンプーを使う若い男の子が増えているのはわかるが、勝手に女性向け商品を買ってくれるなら、わざわざ『女子力男子』向けのジャンルをつくる必要はないんじゃないか」といわれたことがあります。

女子力をもった男子は、男子でも女子でもない人たちであることを、この商品開発部の方は理解していないのです。

たしかに、女性向け商品を買う男性の割合は増えています。でも彼らはその商品が欲しくて購入しているわけではありません。

顔の汚れを拭き取る洗顔シートを例にとれば、肌のケアに気を遣う女子力男子の多くは、皮膚への刺激が強いメンズ向けは敬遠し、肌に優しく、香性が強い女性用の洗顔シートを使用しています。

美意識が高い女子力男子は、「自分の価値観とは違う」といって男物のジャンルになかなか手を出しません。男性向け商品よりはマシという基準で、「仕方なく」女性向け商品を購入しているのです。

もちろん彼らは、男女の体の構造が異なることは百も承知です。「本当に自分の体に適しているのか」という不安を抱きながら女性向け商品を使っている男子の声に、各メーカーはもっと耳を傾けるべきです。

女子力男子が安心して使える女子力男子を対象にした商品を各社が開発することで、これまで二の足を踏んでいた男子のニーズを吸い上げることになり、市場を席巻できるかもしれません。

化粧品や洋服のほかに、スイーツも女子力男子をターゲットにした効果が期待できる市場でしょう。話題のパンケーキやポップコーンのお店に頻繁に足を運ぶ「スイーツ男子」の話を聞くと、店内は基本的に女性客ばかりで、周りの目を気にして入店するのに躊躇するそうです。

これも先ほどのケースと同様に、女子力男子になれない男子力男子がいるということです。個人的には、映画館のレディースデーのようにメンズデーがあってもいいと思います。業界全体でお客さんの傾向に対するサービスサイドの意識が低いことに、歯がゆい気持ちです。

 

モテるために女子力を磨く男子たち

もう1つ、女子力男子を分類する1つの基準に、自分に意識を向けている「自己満足」タイプと、他人の目を意識している「他者意識」タイプの2つがあります。

前者は、先述した「日傘男子」や女装を趣味とする「女装男子」がカテゴライズされます。他人からどう思われようが、自分が楽しければいいと捉えるタイプです。

一方、後者の他者意識タイプの女子力男子にとって、女子力を身に付けることは異性や同性からモテるための処世術として捉えられています。彼らのほとんどはいわば羊の皮を被ったオオカミで、腹の底では保守的な考えをもっている。他人の目を意識した、いわば偽装の女子力男子です。

彼らはソーシャルメディアが普及したことで、他人からどう見られるかという自意識のプレッシャーを強く感じるようになり、「女子力=モテ力」の概念にとらわれた人たちです。

フェイスブックに料理の写真をアップして「いいね!」の反応を期待したり、本当は興味のない美容やファッションを追いかけている節があります。

さらに、一見すると優しい印象でも、ナイトクラブなどで「壁ドン」して女の子を口説いているエセ女子力男子はたくさんいます。彼らは、恋愛やセックスには消極的な草食男子とは対極に位置します。

基本的には自身の女子っぽい趣味を隠すことはせず、むしろそれを大々的にアピールすることで肯定的に見られるので、彼らが異性・同性問わず人間関係に苦労することはありません。

彼らより上の世代の人たちは、自己満足型の女子力男子の存在にしか気付いていません。せいぜい「なよなよしていて、かわいい小物をもつ男性が増えているだけだろう」くらいに思っているだけです。

そうではなく、処世術として女子力を付けた男子が実数として増えている現実に目を向けるべきです。

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