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天皇皇后両陛下とパラオ―慰霊のためご訪問される意味とは?

2015年04月08日 公開

井上和彦(ジャーナリスト)

《『Voice』2015年5月号より》

戦後七十年――慰霊のため「天皇の島」をご訪問される意味とは?

「サイパンに 戦ひし人その様を 浜辺に伏して 我らに語りき」

「あまたなる 命の失せし崖の下 海深くして 青く澄みたり」

 天皇陛下は、サイパン島で亡くなった方々への深い哀悼の意を御製に込められた。

 大東亜戦争終結から60周年にあたる平成17年(2005)6月、天皇皇后両陛下は、戦没者の慰霊のためにマリアナ諸島のサイパンをご訪問され、このとき中部太平洋戦没者の碑のほかバンザイクリフにも足をお運びになり、多くの日本人が亡くなったこの岬で頭を垂れて黙祷を捧げられたのである。

 そして皇后陛下も御歌にその思いをこう込められたのだった。

 「いまはとて 島果ての崖踏みけりし をみなの足裏思へばかなし」

 大東亜戦争においてサイパンで亡くなった民間人はおよそ1万人、激しい艦砲射撃や爆撃あるいは機銃掃射によって斃れ、またこのスーサイドクリフやバンザイクリフから5000人もの人びとが身を投じて自ら命を絶ったのである。

 いまから10年前に天皇皇后両陛下が行幸啓されたサイパンは、アメリカ合衆国の自治領たる北マリアナ諸島の中心だが、戦前は、南洋庁サイパン支庁が置かれた日本の委任統治領だったのだ。

 第一次世界大戦後の1920年(大正9)、サイパンは日本の委任統治領となり、この島に南洋庁サイパン支庁が置かれ、多くの日本人がこの島に移り住み、最盛期には3万人に膨れ上がったという。これは島の人口の9割を占め、サイパンは実質上の日本領であった。

 昭和19年6月15日、そんなサイパン島に米軍が来寇し、島を守る日本軍との激しい戦闘の末に4万1000余人の日本軍守備隊は玉砕し、前述のとおり1万人もの民間人が断崖から身を躍らせて亡くなったのである。

 天皇皇后両陛下は、サイパンがかつて同じ歴史を歩んだ日本の元信託委任統治領であったからこそ、終戦60年の節目の年に慰霊のために行幸啓されたのだった。

 

「天皇の島」と呼ばれた島

 そして大東亜戦争終結70周年にあたる今年平成27年の4月8日、9日、天皇皇后両陛下はパラオ共和国を行幸啓される。

 パラオ共和国もまた、第一次世界大戦後のパリ講和会議でドイツの植民地から正式に日本の委任統治領となり、サイパンと同様に1945年(昭和20)まで日本の統治下にあったのだ。

 国際連盟による日本の内南洋委任統治が決定するや、日本政府は、1922年(大正11)にパラオに南洋統治の行政機関「南洋庁」を設置した。すると日本本土から多くの移民がやって来たことで、その人口は3万人を超えて原住民約6500人をはるかに上回ったのである。日本人移民は、漁業やリン鉱石の採掘で生計を立て、また鰹節の生産や米の栽培にも取り組んだという。

 そんなパラオも大東亜戦争における戦場になり、この地で1万人を超える日本軍将兵が散華したのだった。

 日本の信託委任統治領だったパラオには、それゆえに日本人墓地もある。

 エメラルドグリーンの海を遠くに望むこの日本人墓地には、パラオで亡くなった在留邦人の墓のほかに戦後多くの戦没者慰霊碑が建立されてきた。

 入り口近くには、「海軍墓地」の石碑があり、「故海軍特務少尉従七位勲六等川合春四郎之墓」や「パラオ中学校慰霊之碑」などの墓標や石碑もある。そして苑内の階段を上がったところには、日本パラオ会・サクラ会が昭和41年に建立した慰霊碑が並ぶ。この慰霊碑には《南海のパラオの磯に哀しく眠る戦友よ 平らけく安らかなれと祈るなり 永遠に 永遠に》とあった。

 また首都マルキョク州のあるパラオ最大の島バベルダオブ島には、日本人とパラオ人の戦没者慰霊塔もある。この慰霊塔は、この地で収集された戦没者の遺骨が納骨されている場所なのだ。

 いまは訪れる人もめっきり減ってしまった戦没者慰霊塔だが、まだ戦争経験者が社会の第一線で頑張っていたころは、多くの人びとが慰霊にやって来たことだろう。なるほどこの慰霊塔は、昭和61年(1986)9月に、日本を代表する一流企業群の寄付によって建立されたものだった。

 そして、最も激しい戦闘が繰り広げられたペリリュー島には日本軍将兵の慰霊地区がある。

 その中のひときわ大きな白い慰霊塔は、ペリリュー島戦没者遺族会の「みたま会」によって建立されたもので、日本国政府による「戦没日本人の碑」や「戦車隊の碑」「砲兵隊慰霊碑」のほか、遺族による個人名の小さな慰霊碑が寄り添うように立っている。

 1万人を超える日本軍将兵が戦死したペリリュー島――この島はかつて“天皇の島”と呼ばれたのである。

 

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