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早坂隆&拳骨拓史 第二の安重根が生まれる日

2015年04月13日 公開
2022年12月07日 更新

早坂隆(ノンフィクション作家),拳骨拓史(作家)

 

「反日」を煽る親北勢力

拳骨 今年3月、第二、第三の安重根が生まれるのではないか、という早坂さんの懸念が現実になる事態が起きました。金基宗容疑者によるリッパート米駐韓大使襲撃事件です。金容疑者は北朝鮮との関係が取り沙汰されていますが、それを裏付けるようなことがあります。北朝鮮が運営している「わが民族同士」というサイトがあるのですが、リッパート大使への襲撃事件の数日前、それを予告するかのような一文が載った。平成22年7月、金容疑者が重家俊範・駐韓日本大使(当時)にコンクリートの塊を投げて逮捕されたときも、やはり犯行の数日前に同サイトに予告文らしきものが載った。金容疑者はそれらを北朝鮮からのメッセージとして受け取り、犯行に及んだ可能性があります。

 北朝鮮は、重家大使が襲撃された際、金容疑者を「現代の尹奉吉」であると称えました。尹奉吉は昭和7年4月29日の天長節(天皇誕生日)に上海で爆弾テロを決行し、多数の日本人を殺傷したテロリストです。そして今回のリッパート大使の襲撃に際しては、北朝鮮は金容疑者をまさに現代の安重根になぞらえた。北朝鮮がメッセージを出す、それを受け取った金容疑者が犯行に及ぶ、それを北朝鮮が称えるというパターンが繰り返されたことになります。

早坂 現在、韓国では『安重根、アベを撃つ』という本がベストセラーになっています。現在に甦った安重根がハルビン駅で日本の「安培」首相を撃つという俗悪な内容ですが、悪趣味だというほかありません。こうした本が書店で平積みになっていることに、日本人としては違和感を覚えざるをえません。こんな状況下では安倍首相の訪韓などとても考えられません。

拳骨 いまの韓国では親北勢力が台頭したことで「反日」であれば何でも許されるといった雰囲気があります。重家大使にセメントを投げつけた金容疑者も、結局、執行猶予が付いて釈放されてしまったわけです。このことが金容疑者に増長を与え、今回のリッパート大使への襲撃につながった。つまり、反日を容認する韓国内の風潮に対し、ありうべきことか司法がこれに迎合したことに問題がある。慰安婦、徴用工、仏像窃盗、産経新聞の前ソウル支局長がいまだに帰国できないという問題にしてもそうですが、いまの韓国社会を取り巻く「反日無罪」の風潮は異常です。

早坂 私が気になるのは、昨年あたりから安重根顕彰の動きが強まっていることです。韓国が中国に働きかけてできたハルビン駅の安重根記念館もその一つですが、中国映画界の巨匠、張芸謀が安重根に関する映画を製作するとの報道もありました。日本に対する歴史戦における中韓共闘をうかがわせるような情報です。さらに、韓国単独でも安重根の映画を製作するという。韓国は安重根を日本に対する歴史カードとして使えると考えているのではないでしょうか。テロリストを堂々と顕彰するような韓国の動きを黙って見過ごしていると、将来に禍根を残します。従軍慰安婦の問題も、最初に日本政府が対応を誤ったことが問題を大きくしてしまった。いまこそ、このことを想起すべきです。

拳骨 そうですね。従軍慰安婦問題が起こったとき、韓国の親日派は「誇りある日本人が謝罪するはずがない」と公言していました。ところが、日本が河野談話でまさかの謝罪をしてしまったことで、彼らは立場を失くしてしまった、という経緯があります。そう考えれば、韓国の親日勢力を弱体化させたのは日本側の責任だといえます。

 そもそも、韓国内で「反日」を煽っているのは誰か。親北勢力です。かつて金日成は「冠のひも戦術」を説きました。韓国を冠に見立て、左右の両端に付いたひもであるアメリカや日本との関係を断てば、韓国は崩れるというもので、日韓の離間はまさに北朝鮮の思うツボなのです。日本側はこの流れを断ち、韓国内の親日勢力をもう一度育成していかなければなりません。怒りのあまり「日本は韓国と断交すべきだ」という論調も聞こえますが、日本のように国土が小さく資源の乏しい国は、敵は少なければ少ないほどよい。これは安全保障のイロハです。

 当然、それは簡単なことではありません。日本側がまずなすべきは、韓国に対して“同文同種”であるという甘い幻想を捨てることです。互いに異なる歴史観と価値観を抱く国だという認識をはっきりもたなければいけない。そのためにも、まさに安重根が生きていた李氏朝鮮や大韓帝国の時代まで遡り、かの国を完全なる異国として対峙していた感覚を取り戻す必要があります。そうしてこそ、日韓の友好は結ばれるものと信じます。

早坂 私が今回の仕事を通じて痛感したのは、歴史というものは簡単に書き換えられてしまう、ということです。安重根を肯定的に描いている韓国側、あるいは日本側の出版物のどれを取っても、彼の残した手記や論文から都合のいい部分だけを引っ張り出して構成している。私はノンフィクション作家として、こうした現象に一石を投じたかった。ほとんどの日本人は、安重根に関して絶対的な知識が不足しています。だから、いまは肯定も否定もできないという状況かもしれません。しかし、韓国側に都合のいい解釈を押し付けられないようにするためにも、その実像をよく知るべきです。そして間違っている部分があれば、違うと指摘することが大切です。安重根はけっして義士、英雄などではない。わが国の初代総理大臣を暗殺した愚劣なテロリストにすぎません。

 

早坂 隆(やさか・たかし)ノンフィクション作家
1973年、愛知県生まれ。著書に、『戦場に散った野球人たち』(文藝春秋)、『鎮魂の旅 大東亜戦争秘録』(中央公論新社)、『昭和十七年の夏 幻の甲子園』(文春文庫)、『世界の日本人ジョーク集』(中公新書ラクレ)ほか多数。

拳骨拓史げんこつ・たくふみ)作家
1976年生まれ。漢学、東洋思想、東洋史の研究を行ない、名越二荒之助(元高千穂商科大学教授)、杉之尾宜生(元防衛大学校教授)に師事。論文や研究発表などを精力的に行なう。近著に、『韓国「反日謀略」の罠』(扶桑社)がある。


<掲載誌紹介>

2015年5月号(日本買いは続くか)

日経平均2万円時代の到来か。ここのところ、企業業績が上向き、今年の春闘は過去最高のベアが相次いだ。企業が設備投資にお金を使い、賃金を引き上げてくれれば、個人消費にも波及し、デフレ脱却も現実味を帯びてくる。そこで、総力特集は「日本買いは続くか」とした。長谷川慶太郎氏は2015年中に2万5000円の水準まで上がると読む。その要因に円安と技術力を上げる。中国人の「爆買い」も話題だ。福島香織氏によると、珊瑚の宝飾品や「南部鉄瓶」は、中国人にとっては投機の対象だそうだ。久しぶりの明るい話題が目白押しだが、喜んでばかりもいられない。

第二特集は、「戦後70年」企画として歴史教育とペリリュー島を取り上げた。特別企画は「歴史に背く韓国」と題し、テロと歴史戦について考えた。最後に大型鼎談として、二階俊博自民党総務会長と漆原良夫公明党中央幹事会会長に、政治解説者の篠原文也氏が斬り込んでいる。ぜひ、ご一読を。

 

 

 

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