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世界に羽ばたく大戸屋〜定食に宿る松下幸之助の願い

2015年09月07日 公開

三森久実(大戸屋ホールディングス前会長)

 

コンビニと差別化できる専門食堂へ

 日本の市場全般については、消費税増税や原材料高による値上げに賃上げが追い付かず、消費者心理も悪化しています。

 消費税増税は小売りだけでなく、産業全体にも影響する問題です。社会保障対策と一体で考えている以上、いずれは上げなければいけないでしょう。

 松下幸之助氏は生前に、21世紀中に税金をゼロにする「無税国家論」を唱えました。大胆な国家の再編によって生み出した資金を、基金として積み立てる、いままでの国家運営にはないアイデアです。たとえば「110年後を見据えて、国家予算の1割を余らせて、年々積み立てていく」といったように、無税国家に至るプロセスやビジョンが明確でわかりやすかった。

 消費税増税の政策判断においても同様ではないでしょうか。短期的なオペレーションではなく、長期的な視点で目標を明示しなければ国民は納得しません。日本には個人金融資産が約1500兆円あります。相続税を引き上げておばあちゃんのタンス預金を無理やり引っ張り出す荒々しい方法ではなく、将来の子どもたちのために必要な投資であると納得したうえで、自然なかたちで「眠った資産」を引き出させる前向きな動機づけを考えるべきです。

 こうした状況下で、外食産業全体が好況感を実感するのは難しいでしょう。しかし、それほど神経質になる必要もありません。人びとで賑わうお店はたくさん見かけますし、おかげさまで大戸屋もランチ時と夕食時だけでなく、オフタイムでも繁盛しています。

 外食産業にとって今後、ベンチマークとすべき対象はコンビニです。とくにコンビニの食品加工技術には目を見張るものがある。利益率を上げるために、たんなる食材コストや人件費の削減に血道を上げる外食チェーン店は、いまや価格はおろか品質面でもコンビニの後塵を拝しています。

 外食産業はいま大きな転機に立たされています。だからこそ効率主義一辺倒のチェーン食堂から、料理の味や品質、サービス、店舗の空間、お客さまと共有する時間など、コンビニと差別化できる専門食堂にモデルチェンジするチャンスなのです。こだわりをもって食に向き合い、顧客目線でどうしたら皆さんに喜んでもらえるかを根気強く考えていけば、衰退することなく、必ず生き残っていけるはずです。コンビニやファストフードを利用する層は一定以上あるでしょうが、お客さまは付加価値を感じ取り、店を使い分けるはずです。

 大戸屋に求められる価値は、何よりも安全性と安心、おいしさです。採れたての野菜や市場から卸したての鮮魚をお届けするのに、通常の流通ルートであればお客さまの口に入るまでに数えきれないほどの製造工程が伴います。見た目の劣化の防止や鮮度を保持するため、薬品にも頼らざるをえません。一方われわれは、第三者機関に使用食材の検査をしてもらい、衛生検査室において、細菌や放射線の多重的な検査を行ないます。また、植物工場の「大戸屋GREENROOM」では、無農薬で栄養価の高い野菜の実用化をめざしています(現在はロメインレタスなどを栽培)。

 また大戸屋の場合、セントラルキッチン(チェーン店の調理を一括して行なう施設)をもたず、各店舗でその日に仕入れた食材の洗浄やカッティングなどの下ごしらえをします。メインディッシュの調理はお客さまからオーダーが入った時点で始め、出来たてを提供できます。まさに子どもが家に帰ってくると、お母さんがすぐ料理を作り始めるのと同じオペレーションです。時間はかかりますが、手作りで愛情を込めて料理を作ることに、お客さまは価値を見出すのです。

 2014年の4月には、各店舗に鰹節削り器を導入しました。枯節を業務用にカットする機械の製造元にお願いして小型化したものです。お客さまからも好評です。われわれは平均して850円、高くても1500円の価格の幅のなかでとびきりおいしいものを提供するのが役割で、そのための努力を惜しまなければ、お客さまは必ず評価してくれます。

 

地球上の人びとの健康に貢献する

 日本はメード・イン・ジャパンの資源が乏しいと揶揄されますが、いわずと知れた知的財産や無形財産の宝庫です。食の世界でも醤油や味噌、最近では塩麹など日本の発酵技術は世界一です。「和食」がユネスコの無形文化遺産に認定されたことで、日本人が「食は世界ブランドなんだ」とようやく気付きました。このタイミングで「クールジャパン」を掲げ、カルチャーだけでなく食文化を海外へと積極的に発信していく国の方針は正しいと思います。自動車や家電製品で外貨を稼ぐのと同じように、世界を牽引する外食産業が生まれることで、日本の食品メーカーや調理機械メーカーが世界に認知されるチャンスにも繋がります。稲作を中心とした日本の農業にとっても、世界へアピールするチャンスと捉えるべきです。

 食に携わる日本人それぞれが「稼ぐ力」を磨き、世界に進出することで、日本食が地球上の人びとの心と体の健康に貢献するという理想は、けっして夢物語で終わることはないでしょう。

※三森久実氏は2015年7月27日に死去されました。本原稿は『Voice』2015年1月号に掲載されたものです。

画像提供:大戸屋ホールディングス

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