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「宗主国なき植民地経済」の没落ーー米中の意外な共通点とは?

2015年10月29日 公開
2016年11月11日 更新

増田悦佐(評論家)

とんでもない連邦ロビイング規制法

 なかでも、宗主国なき植民地経済として、実態を見るとひとにぎりの利権集団の権益が非常に強かったアメリカは、勝者のおごりとしか言いようのない悪法を終戦直後の1946年に制定してしまった。それが、連邦ロビイング規制法だ。

 名前こそ規制法となっている。だが、実際にはほかの国なら当然贈収賄という犯罪を構成する特定の利益集団から政治家への「献金」も、連邦議会に登録し、四半期ごとに財務諸表を公開しているロビイスト団体を通じて行なえば、正当で合法的な政治活動として認められるという、とんでもない法律なのだ。こういう法律が議会を通過してしまうこと自体が、アメリカという国は利権集団が統治責任を取らずにボロ儲けを続ける宗主国なき植民地経済であることを証明している。

 そして、製造業において中国とのあいだで頭脳労働と肉体労働の分業体制を確立したアメリカは、金融業と国家との関係においては、連邦準備制度と日銀との緊密な協力を通じて、完成された官製相場による永遠の金融ブームを創出しかけていた。つまり、中央銀行が国債を買い入れて金融機関に現金をばら撒くことによって、国債価格の上昇=金利の低下と株価の上昇を未来永劫にわたって維持するという状態が出現しかけていたのだ。

 これは、国や大地方自治体や一流企業や大手金融機関や大金持ちにとっては、際限なく借金や起債を続ければ、「穏やかなインフレ」と低金利の相乗効果で、黙っていても儲かるおいしい経済環境だ。だが、自宅を担保に入れなければ大きな借金のできない庶民にとっては、何ひとついいことのない経済環境なのだ。しかも、国が既発債の償還財源に窮したとしても、借り換え債を発行させて不換紙幣を増刷して買い取ってやれば、形式論理上はいつまでも破綻することなく国家債務を増大させつづけることができる。

 しかし、この考え抜かれた利権集団の、利権集団による、利権集団のための経済環境もついに破綻するときが来たようだ。中国で行ないつづけてきた過剰投資で、工場の新増設、都市開発、不動産開発、インフラ整備、どれをとっても収益を生むどころか、投下資金さえ回収できない案件が続出しているからだ。

 

「影の宗主国」は撤退する

 アメリカ国内ではどんなに工夫を凝らして、国と一流企業と大手金融機関の繁栄が永遠に続くような仕組みをつくり上げたとしても、その基盤を支えているのは製造業における米中間の頭脳労働と肉体労働の分業と、中国にエネルギー資源や金属資源を輸出して儲けている資源国の稼いだ外貨をアメリカ国内への投融資に還流させることの2本柱なのだ。この2本柱は、どちらも中国経済ができることなら順調な成長を続け、最低でも現状維持をしてくれなくなったら、崩壊するしかない。

 現に、資源国からアメリカへの投融資は、今回の金融市場の大波乱の前から急激に減少していた。直接的には原油価格の低下が原因だ。だが、その原油価格暴落も、これまで毎年激増してきた中国の原油消費量が、2012年末からは横ばい、そして2014年春からは減少に転じたことに端を発している。

 さらに深刻なことに、いまなお貿易・経常収支では巨額の黒字を出しつづけている中国が、外貨準備を見ると激減に転じている。「誤差・脱漏」という統計上の不整合の金額が莫大な経常黒字を上回るほど大きな純流出となっているのだ。どうやら宗主国なき植民地経済の一方の旗頭である中国の「影の宗主国」は、中国から撤退する際にもきちんと統計資料に姿を現さずに、統計上の誤差というかたちでひそかに撤退する道を選んだようだ。

 というわけで、今般の世界同時株安は、手段を選ばず荒稼ぎしたものが勝ちというあさましい植民地経済を世界に押し付けてきた米中両国が没落するきっかけである可能性が非常に高い。この同時株安を私は心の底から歓迎する。

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