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授業に出れず、単位を落とす学生が急増!学習塾や小売業の「ブラックバイト」に注意

2016年04月20日 公開

坂倉昇平(『POSSE』編集長、ブラックバイトユニオン事務局長)

親が子供の異変に気付けるか

 

 ーーバイトにのめり込む子供をもつ親は、心配で仕方がないでしょう。何か打つ手はないのでしょうか。

 坂倉 じつは、親が子の異変に気付いて相談に来たケースも少なくないのです。

 小売店で働く息子さんをもつ母親の例では、その子の友人の母親から「お宅の息子さんから突然、お中元が贈られてきた」という。驚いて話を聞くと、バイト先で3万~4万円のお中元の販売ノルマを課せられ、ノルマ達成のために自腹を切って知人にお中元を贈る「自爆営業」をしていたのです。

 ーーそれは違法ではないのですか?

 坂倉 店側がアルバイトに無理やり商品を買わせている場合や給料から天引きしていれば明らかな違法ですが、本人が自発的に買ったとすれば違法ではありません。しかし、違法でないなら許されるのでしょうか。学生に無理なノルマを迫ること自体が非倫理的です。

 親が介入してすぐに解決に至ることはありませんが、子供がブラックバイトにのめり込まないためにまず両親が異変に気付くことは重要です。

 ーーブラックバイトかどうかを見極めるには何をすればいいでしょうか。

 坂倉 採用時の面接で「就職活動との両立は可能か」「テスト期間中は休めるか」など、勤務シフトについて不安に思う点があれば、確認して言質を取っておくべきです。また、労働条件について書かれた書類を受け取ることも忘れてはいけません。この書類を渡さなければ労働基準法違反ですし、渡そうとしない場合は、会社が労働条件をごまかそうと考えている可能性が高く、ブラックバイトの疑いが濃厚になりますね。

 ーー学生もアルバイトを始める前に、基本的な労働法の知識を身に付けたほうがいいですね。たとえば、雇用者が勤務シフトを無理やり入れるのは法律違反ですか。

 坂倉 じつは、そもそもシフトはあくまで本人と雇用者のあいだの「合意」で決まり、労働基準法違反の対象外なのです。厚生労働省や労働基準監督署も関与できず、国や法律もお手上げという状態のなか、学生は藁にもすがる思いで私たちの元に駆け込んでくるのです。

 そうした学生に、「法律上は2週間前に申告すればバイトを辞められます」「店側がバイトに損害賠償を請求してきても無効です」など、法的権利を盾に対処するようにアドバイスしています。法律でカバーできない場合は、会社と団体交渉して「シフトは学業に配慮する」というルールを新たにつくったケースもあります。

 ーー大学は、学生がブラックバイトに陥るのを食い止める歯止めになりますか。

 坂倉 ブラックバイトに対する危機感は大学側にも認識され始めています。以前、ある大学からブラックバイトをテーマにした講演を依頼されたときは、300人収容の教室が満席になり立ち見も出ました。

 それだけ関心が高いのですから、大学側も相談窓口を設けたり、労働組合を積極的に紹介したりと、もう少し学生に向けた啓発活動に力を入れてほしいものです。

 ーー就職活動が近づくと、大学に併設されたキャリアセンターのアドバイスを真に受けて、とりあえずバイトを始める学生も多いですね。

 坂倉 採用時の面接で「バイトリーダーをやっていたので、コミュニケーションには自信があります」と自己PRする学生も少なくありません。

 しかし、サービス業でバイトをしていた経験で身に付けられる「能力」が、どの程度就職に役立つのでしょうか。バイト先で就職するならいいかもしれませんけど。学校の就職担当者も、教育を掲げるからには、仕事の「スキルアップ」を促すだけでなく、労働法の知識も含めてバランスよく指導をするべきだと思います。

 

新しい労働組合の意義

 

 ーー昨年の秋、厚生労働省が初めて学生のアルバイトの実態調査を行ないました。その結果、アルバイトで働く大学生などの約6割が、賃金や勤務シフトなどの労働条件をめぐるトラブルを経験したことが明らかになりました。

 坂倉 国がブラックバイトを公的な問題として捉えているのはいい傾向です。ただ、残念ながら実体が伴っていない政策が多いように思います。厚労省の実態調査にしても、インターネット上の調査で済ませたり、質問項目に曖昧な点があったりと、十分なリサーチとはいえません。とくに、労働問題に関する相談先の選択項目に「労働組合」が含まれていなかったことには、驚きを禁じえませんでした。私たちの労働組合には2015年度だけで1500件を超える相談が寄せられているんですよ。

 厚労省は「過重労働特別対策撲滅班(かとく)」などをつくって、ブラック企業やブラックバイトに対する取り締まりの強化を政策にしています。ただ、取り締まり強化の大前提は、労働基準監督署の監督官の大幅な増員でしょう。国家公務員の人員削減により、労働行政職員もこの10年で2000人が削られています。監督官は全国に3000名いるとされていますが、削減された職員の代わりに事務作業などに追われ、実際に企業の監督活動をできる現場の監督官は半分の1500名程度しかいません。職場の集中する東京23区ですら120名程度。一人で3000~4000事業所を担当することになる。有効な対策なんて打てませんよ。

 ーー政策の実効性が乏しいとなれば、政治家に働きかけて改善を促すのはいかがでしょうか。

 坂倉 私たちのNPOでも自民党や公明党の議員と議論をしたり、野党の会合で講演を行なったりしています。労働問題は政党を超えた普遍的な社会問題として取り組むべきですし、取り組めると思います。

 一方で、現場から改善を促していく活動も一つです。ブラックバイトユニオンはこれまで現場の実態を社会的に公表したり、企業との団体交渉をしたりして、職場や業界の体質改善に努めてきた実績があります。

 私たちに相談に来た、個別指導塾の業界最大手で働いている大学院生が「自分が働いている学習塾の労働環境を変えたい」と組合に入り、たった半年で企業を是正させたこともあります。一緒に団体交渉を行なった結果、全アルバイト・退職者に対して2年分の未払い賃金が支払われるようになりました。それだけではなく、今後は授業時間外の給料もきちんと支払われる制度になりました。業界全体にも同様の動きが広がっています。一人の学生が声を上げたことで、業界全体が改善できたのです。

 ーー今後、ブラックバイトユニオンとしてどんな活動をしていく予定ですか。

 坂倉 世界を見渡せば、労働運動を通じた業界改善は常識です。それなのに、日本では歴史的な経緯から労働運動が社会的に忌避される傾向があります。

 私たちは、過去の労働組合からは断絶したところから取り組みを始めました。ブラックバイト問題を契機に、若者たちは、新しい労働組合の意義に気付きはじめています。

 このままブラックバイトを野放しにしていては、いずれ学生がブラック企業に慣れるための「導入研修」になってしまう。ただ、「ブラックバイト」という言葉の広がりや、ブラックバイトユニオンの活躍を知り、現状に違和感を覚えている学生も少なからず現れています。若者が使い潰されていく社会的な危機を、「おかしいことには声を上げる」ことをスタンダードにするためのチャンスに転換していきたい。そして、彼らが社会人として就職したあとも、企業の理不尽な問題に向き合い、交渉できる人間になってほしい。上の世代の皆さんにも、応援してもらいたいです。

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