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感染者数は最大150万人…オリンピックを悩ませた"ウイルスの脅威"

2016年05月12日 公開
2023年01月12日 更新

岡田晴恵(白鴎大学教授)

リオ五輪を悩ませたジカ熱

WHOの緊急事態宣言…日本にも求められる早急な対策

2016年3月16日の時点で、WHO(世界保健機関)はジカ(Zika)ウイルス感染症が中南米を中心に59カ国に拡大、依然としてその流行・拡大が続いていることを発表した。

2015年より、ブラジルや仏領ポリネシアなどの熱帯地域で、多数の妊婦がジカウイルスに感染しており、死産・流産や胎児の先天性異常である小頭症の発生との関連が強く示唆されて、重大な問題となっている。

また、これらの地域で多発しているギラン-バレ症候群(筋肉の弛緩性麻痺を起こす運動神経障害)との関連も懸念されている。

21世紀の現代社会は、時に想定外の新興感染症の感染爆発に見舞われる。このジカウイルスの感染症も、これまでは、熱帯の蚊の吸血によって媒介される軽症の発熱性ウイルス疾患で、公衆衛生上とくに問題はないと考えられていた。

しかし、昨年からのブラジルでの感染爆発により、多数の重篤な先天性障害をもった新生児が誕生していることから、WHOは2016年2月1日、ジカウイルス感染症の流行を世界的な健康危機と判断して、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。

これによりジカウイルスの拡大を世界へ警告し、その対策と研究、人的資源の援助も積極的に行なっていくこととなった。

ジカウイルス病での宣言について、WHOのマーガレット・チャン事務局長は、「ジカウイルスに感染した妊婦からの小頭症の新生児の出生は、ジカウイルス感染との因果関係が医学的に証明されていなくとも、脳の発達障害を起こしている新生児が多く生まれてきているインパクトはあまりに大きく、公衆衛生上の危機宣言発令の意義を認める」としている。

一方、蚊の吸血以外にも、ウイルスに感染した男性との性交渉によっても感染伝播が起こり、妊婦では胎盤や胎児にもウイルスが移行することが示されている。

さらに、流行地域で感染した人の移動により、世界各地でも感染患者の発生が報告されている。日本でも、2016年初頭に、流行地域に滞在中に蚊に刺され、帰国後に感染発症が確認されたなど、4名のジカウイルス感染例が見つかった。韓国でも感染者が発生している。

今年8月にはリオ五輪が開催されることから、ジカウイルス感染症の大量発生とウイルスの世界各地への拡散が強く懸念されている。

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