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感染者数は最大150万人…オリンピックを悩ませた"ウイルスの脅威"

2016年05月12日 公開
2023年01月12日 更新

岡田晴恵(白鴎大学教授)

 

ジカウイルスの感染伝播経路

ジカ熱は、デング熱と同じようにヤブ蚊が媒介する感染症である。ネッタイシマカが主たる媒介蚊ではあるが、日本にいるヒトスジシマカもジカウイルスを媒介できる。

もしも夏季に日本にウイルスが侵入した際には、2014年夏の東京・代々木公園におけるデングウイルスの感染流行のような事態も懸念される。

ウイルスを媒介する蚊の生息地域が主にヒトへの感染リスクを規定するので、現時点では、WHOや米国疾病予防管理センター(CDC)は、妊婦および妊娠の可能性のある女性に対して、中南米、カリブ諸国などにおけるネッタイシマカの分布地域への旅行、滞在を控えるように強く勧告している。

ただし、ネッタイシマカの生息しない標高2000m以上の高地は除かれている。

また、輸血や性行為での感染も報告されている。ジカウイルスに感染した男性からセックスパートナーの女性へ感染させた事例である。感染を受けた(不顕性感染を含む)男性の精液には、2週間から10週間程度までジカウイルスが残存するという。

米国CDCのジカウイルス病感染予防ガイドラインは、セックスパートナーの男性がジカ熱流行地域に渡航した場合には、パートナーとなる妊婦は妊娠期間中の性交渉を避けるか、安全な性交渉を妊娠期間に続ける必要がある。発症した男性に対しては、6カ月間はコンドームを付けない性行為を禁じている。

さらに、2015年に輸血を受けてジカウイルスに感染した2例が、ブラジルで発表された。感染者はブラジルでの流行開始以前に、輸血により感染したことが明らかにされている。

仏領ポリネシアでは流行のあった2013~14年の期間に、ジカ熱症状を呈していない人の血液サンプルによるPCRの遺伝子検査で、3%がジカウイルス遺伝子陽性となったことが報告されている。

これらのことから、米国赤十字は、ジカ熱流行地からの帰国者は28日間以内の献血を控え、その期間を過ぎてから献血を可能とするとした。日本赤十字においては、そもそも今回の流行以前から、海外からの帰国者については帰国後28日間の献血はできないことになっている。

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