ホーム » Voice » 経済・経営 » ついに21万社のリストが公開、「パナマ文書」で始まる金融覇権戦争

ついに21万社のリストが公開、「パナマ文書」で始まる金融覇権戦争

2016年05月12日 公開

丸谷元人(ジャーナリスト)

漏洩の背景にある工作とは?国家の生き残りを懸けた戦いが始まる!

パナマ文書の狙い

 世界中の大手メディアが、連日「パナマ文書漏洩問題」を大きく報じ続けている。

 この問題は、ドイツ銀行やクレディ・スイス、香港上海銀行といった大手金融機関と連携しながら、全世界40カ所に拠点と500人もの従業員を抱え、約30万社以上の各国企業と取引実績を有するパナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」が1970年代から作成してきた、総数1150万件もの膨大な機密文書が、2015年にドイツの大手新聞社『南ドイツ新聞』に漏洩したというものだ。

 その後、ワシントンにある国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)にも送られ、80カ国107社の報道機関に所属する400人以上のジャーナリストがこの文書の分析に加わった結果、21万4000社ものさまざまな国の企業や、万単位の個人の富裕層が、自国での税金の支払いから逃れるため、オフショアのタックスヘイブンを利用していたという実態が記載されていた。中にはいくつかの国家の政府要人や、ジャッキー・チェンなど著名人の名前までが含まれていることもわかった。

 いまのところ「何者」が「どうやって」そんな大量の資料を盗み出したのかは明らかになっていないが、かつて米情報機関から大量の機密情報を盗んでロシアに亡命したあのエドワード・スノーデンさえ、「データジャーナリズム史上、世界最大のリーク」と自らのツイッターで表現しているほどの大事件となっている。

 タックスヘイブンとは、外国資本や外貨獲得のため、税金を無税あるいはきわめて低い税率に設定することで、企業や富裕層の資産を誘致している国や地域のことであり、「租税回避地」ともいう。そして本来タックスヘイブンを利用することは、ほとんどの場合は違法ではない。しかし、このパナマ文書が与えた最大の衝撃は、庶民に税金を強いている国家の指導者や、そんな税金で運営されている公共サービスを利用している富裕層が「合法的に」資産を隠し、納税を回避していたという実態を暴いたことである。

 本稿では、それほどの衝撃を与えたこの文書がいったい誰によって、かつ何の目的でリークされたのかを考えてみたい。

 

疑われるCIAの関与

 パナマ文書の出現でもっとも慌てた有力国家指導者といえば、自らの8人もの親類が巨額の資産隠しをしていたことが暴露された中国の習近平主席であろう。これまで国内で苛烈なまでの反腐敗運動を掲げ、政敵を次々と葬り去ってきた立場上、この情報が国内に広まれば、国民の不満が一気に高まり、下手をすれば政権転覆に至る可能性がある。そのため、当局は徹底的な情報検閲を発動し、ネット上でパナマ文書の存在を指摘していた広東省の弁護士(葛永喜氏)の身柄を一時勾留するなどしている。これを見ても中国当局がそうとうに慌てた様子がわかる。

 一方、友人の一人の名前がパナマ文書に出ていたというだけで、西側メディアから散々に疑惑の目を向けられたのが、ロシアのプーチン大統領だ。

 実際、贔屓目に見ても欧米主要メディアの反プーチン報道はかなり恣意的であると言わざるを得ないが、このパナマ文書に対し、ロシア政府は黙っていなかった。プーチン大統領の報道官は、パナマ文書を公開したICIJというジャーナリスト集団なるものの正体をクレムリンはよく知っているのだ、とした上で、「彼らはジャーナリズムの世界で名の知れた人々ではなく、じつはその多くが元米国務省職員やCIA(中央情報局)をはじめとする諜報機関要員たちである」と指摘している(『ロシア・トゥデイ』2016年4月4日)。

 また、世界最大の英文ビジネス雑誌『フォーチュン』(電子版、2016年4月16日)では、スイス銀行に勤務していた元バンカー、ブラッドリー・バーケンフェルド氏が、「この(パナマ文書流出)事件の背後には、間違いなくCIAがいる」とした発言を掲載している。

 その理由として、NSA(国家安全保障局)やCIAであれば、このように法律事務所に侵入して何かを盗み出すことは容易だ、というわけだが、バーケンフェルド氏はそれ以上に、槍玉に挙がった人びとの国籍を指摘している。

「間違いない事実は、ここで表に出ている名前は、直接的に名指しされていないものも含め米国の敵とされる国々ばかりである。ロシアや中国、パキスタン、アルゼンチンといった名前はあれど、米国の名前は一つも出てこない」(同氏)

 もちろん、米政府関係者がゼロであったわけではない。パナマ文書には、CIAも関わった「イラン・コントラ事件関係者」の名前や、かつてCIAに協力していたサウジアラビア情報機関のカマル・アドハム元長官の名前も記載されていた。これを見れば、CIA関与説はないだろうと考える人も出てくるだろう。しかし、「イラン・コントラ事件」などは30年以上も前の事件であるし、カマル・アドハム氏に至っては1999年にすでに死去している。

 そもそも、CIAがこの手のタックスヘイブンなどを使っていかがわしい資金移動を行なってきたということは、一端のジャーナリストであれば常識の範囲内であるし、もはや何の役にも立たなくなった「過去の協力者」たちの名前がリークされたことなど、CIAにとっては痛くも痒くもない。

 それに最近のサウジは、米政府から見捨てられそうな立場にある。その理由は、最大のライバルであるシーア派のイランに近づき、またシェール革命によってサウジへの石油依存度を下げた米国に対して腹を立て、2014年10月から石油価格の暴落を仕掛けたからだ。そのお返しとして、複数のサウジの王子たちが麻薬密輸や女性暴行容疑などで逮捕されている。かつて米国と仲睦まじかったころなら考えられなかったことだ。

 むしろCIA関係者の名前をこの程度リークしておくことは、国際政治の裏側など何も知らない大半の一般大衆をして、「もし本当にCIAがリークしたのなら、自らの内部情報まで出すはずがない」といった思考に誘導し、かえって「CIA=潔白」と信じさせる効果のほうが大きいと考えるべきだろう。

 すなわち「パナマ文書」自体は、それだけきっちりと事前に「選別」され、「計算」された可能性が強いということだ。

「外国政府転覆のプロ」ジョージ・ソロスの影 >

癒しフェア2018 東京(8月)、大阪(3月)出店者大募集!!

関連記事

編集部のおすすめ

安保法施行、日本政府は在外邦人救出に策があるか

丸谷元人(ジャーナリスト)

反日・反独映画の虚妄――なぜ『アンブロークン』の日本上映を望むのか?

丸谷元人(ジャーナリスト)


アクセスランキング

  • Twitterでシェアする
癒しフェア2018 東京(8月)、大阪(3月)出店者大募集!!

21世紀のよりよい社会を実現するための提言誌として、
つねに新鮮な視点と確かなビジョンを提起する総合月刊誌です。