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ついに21万社のリストが公開、「パナマ文書」で始まる金融覇権戦争

2016年05月12日 公開

丸谷元人(ジャーナリスト)

真の目的は「金融帝国による覇権の復活」

 しかし一方で、憎いプーチンを狙い撃ちした割には、パナマ文書の中にプーチンやその一族の名前はまったく出てこないのは不思議だ。あれだけ「怪しいぞ」とメディアが煽ったにもかかわらずである。秘密工作に長けた米国政府らしからぬ脇の甘さだ。するとパナマ文書の本当の目的は、もっと他にあるのではないかと考えたくなる。

 ドイツの金融専門家エリスト・ヴォリファ氏は、『スプートニク』のラジオ放送において、その真の目的を明らかにしている。すなわちパナマ文書の目的とは、「ただ米国内のタックスヘイブンに資金を流入させることだ」と言うのだ。

 じつは今日、事実上の世界最大のタックスヘイブンは米国自身である。米政府は、多国籍企業に対してさまざまな税制優遇措置を講じており、またワイオミング州やネバダ州、サウスダコタ州にはタックスヘイブンが存在する。

 2013年にネバダ州リノに、新たな信託を設立したという世界最大の投資銀行ロスチャイルドのアンドリュー・ペニー総支配人は、「それぞれの国の政府への税金の支払いを逃れ、資金を隠すためには、米国に資金を移すことだ」といったアドバイスまで行なっており、いまや利に聡い多くの富裕層たちはせっせと米国内に自らの富を移動させている。2016年1月27日付の『ブルームバーグ』は、「これまであったオフショアの秘密タックスヘイブンから、米国内にマネーを移動することが、いま盛んに行なわれている新しいビジネスである」と指摘している。

 チューリッヒの弁護士ピーター・コトルシーヌ氏は、かつて徹底した秘密主義だったスイスの銀行を「あたかも聖人のごとく非難してきた」はずのあの米国が、いまや自らが秘密銀行取引の新たな拠点になろうとは、まったくなんという奇妙な皮肉だろうか、とした上で、「『何かが吸い上げられている大きな音』が聞こえないか? それは米国に資金がどっと流れ込んでいる音だ」と冷笑的にコメントしている。いまや米国は「新しいスイス」とまで揶揄されているのだ(『ブルームバーグ』2016年1月29日付)。

 前述のドイツの金融専門家ヴォリファ氏もまた、これから個人資産家や企業の資金が海外のタックスヘイブンから米国内に移されるであろうことを指摘した上で、今回のパナマ文書事件について、「米情報機関が関与していると確信している。(中略)文書の流出は米国にとって好都合であり、また米国のやり方とも一致している」と述べている。

 つまり米政府は世界中の富を自国に還流させ、それを一元管理することで「世界最強の金融覇権帝国」をつくり上げ、それで諸外国に対する支配権を再び確立しようとしているのであろう。おそらくこれこそがパナマ文書の「真の目的」であり、ジョージ・ソロスや情報機関はその目的のために活動しているに違いない。

 そう考えると、パナマ文書はEUやロシア、中国など世界中に向けて米国が仕掛けた新しい金融戦争の「強力な兵器」である。米国内に資金を移動させれば守ってやるが、それをしない企業や富裕層は、それぞれ自国において高額の税金を支払うか、あるいは第2、第3の「パナマ文書」によって大打撃を与えるぞ、という意味なのだろう。米政府はそうして地球規模での経済金融覇権を取り戻したいし、ソロスあたりの投資家は、それに乗じてさらなる巨額の利益を稼ぎたいのだ。

 そんな彼らにとっての共通の敵は、ロシアや中国のように、自国の権益や存立を守ろうとする「民族主義」であり、また、国民をまとめて米国の政策にノーを突き付ける「強力なリーダーシップ」であろう。今回、習近平の汚れた親族の素顔や、プーチンの親友の名前がリークされたことは、米国得意の信用破壊工作であるに違いない。

 パナマ文書の暴露は、国際金融競争を中心とした国家の生き残りを懸けた戦いの序章になるだろう。そのなかで、米国という国家を乗っ取った多国籍企業や超富裕層が「現代の王族」として君臨し、日本を含めた他の国々は、いずれ彼らに隷従することになる。そんな恐ろしい時代はすぐそこまで来ているのかもしれない。

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