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山下柚実 世界トップ100へ──広島大学の挑戦

2016年10月18日 公開
2017年05月13日 更新

山下柚実(作家、コラムニスト)

地方の国立大学ならでの独自性をどう確立していくのか

 

 

広島大学による宣言

 東京出身の私が広島の町を歩いてまず気付いたのは、幾筋もの川が流れ、空が大きく広がっている「空間の気持ちよさ」でした。緑が豊かで、きれいに植樹され整った街並みを、ゴトンゴトンと路面電車が走っていくのどかさ。路面電車の座席で揺られているときには、車内の静けさが印象に残りました。朝の通勤時間にもかかわらず、乗降客の動きはゆったりとしていてどこか余裕が感じられ、車内でときどき交わされる会話は他者への配慮があり、静かでした。ある種の「清々しさ」を、広島という土地から感じたのです。

 もしかすると、「外国人に人気の日本の観光スポットランキング」の2位と3位が広島だということが全国的には知られていなかったり、ご当地グルメを強くアピールする宣伝に出合わないのも、広島県人の少し控えめで謙虚な県民性に由来しているのかもしれません。

 2015年4月3日、そんな広島の県民性も含めて自分たちの存在をアピールしようという広告が新聞に掲載されました。一面を大きく使った広告には「広大広告」という、ちょっと不思議な、大きな見出しが付けられていました。文面にはこうありました。

「広島大学はこれまで広告とあまり縁がありませんでした。全国有数の総合研究大学で研究成果も数多く、学界、産業界、教育機関、行政等に優秀な人材を多数送り出して来たので必要性をあまり感じなかったから。その学風と県民性からか、謙虚過ぎるぐらい謙虚だったから。中四国地方で唯一『スーパーグローバル大学(トップ型)』に選ばれるなどアピールできる題材が多岐にわたり過ぎて的が絞り込めなかったから。でも時代は変わりました。そして、私たちも変わります。『見える』情報発信を始めます。3912人の新入生を迎える今朝、その第1弾をお送りします」(2015年4月3日『中国新聞』)

 国立大学である広島大学が、なぜ、新聞に一面広告を掲載するのでしょう。

 その必要性やねらいとは何なのでしょうか。政府が「地方創生」でも問題提起している少子化が進むなかで、国立大学にも何か大変な事態が起こっているのでしょうか? また、広告の文面にある「中四国地方で唯一『スーパーグローバル大学(トップ型)』に選ばれる」とは、いったいどんなことを意味しているのでしょう。その対象大学に「選ばれる」ことによって、広島大学はどんなメリットを得られるというのでしょうか?

 広島大学による積極的な情報発信は新聞広告に留まりません。「10年以内に世界大学ランキング100位以内に入る」ということを、世の中に向かって宣言したのです。いったい広島大学はどこへ向かおうとしているのか。どのように変わろうとしているのでしょうか?

 

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著者紹介

山下柚実(やましたゆみ)

作家、コラムニスト

東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。現在、五感生活研究所代表、江戸川区景観審議会委員。著書に、『なぜ関西のローカル大学「近大」が、志願者数日本一になったのか』(光文社)などがある。

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