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村田晃嗣 トランプ対ハリウッド

2017年03月01日 公開
2022年07月08日 更新

村田晃嗣(同志社大学法学部教授)

「一つのアメリカ」というメッセージ

 最近のハリウッド映画からも、反トランプ的なメッセージを容易に読み取れよう。

 クエンティン・タランティーノがそうである。彼は2012年の大統領選挙の折にも、『ジャンゴ 繋がれざる者』を手掛けていた。南北戦争の前に、自由黒人が早撃ちの達人になり、ミシシッピーのプランテーション農場で奴隷として酷使されている妻を救いに行く物語である。共和党保守派が議会で多数を占めるなかで、苦悩するオバマ大統領へのエールであろう。

 そのタランティーノが、2015年には『ヘイトフル・エイト』を発表した。今度は、南北戦争後のワイオミングの山中が舞台である。ここで黒人の賞金稼ぎや南軍の元将軍、保安官と犯罪者ら、ワケありの8人が疑心暗鬼のなかで一夜を過ごす。やがて、血で血を洗う殺し合いが展開するが、最後には黒人と白人との和解が示唆されている。しかも、黒人の賞金稼ぎは、エイブラハム・リンカーン大統領と文通していたそうで、(真偽のほどは明らかではないが)大統領からの手紙を持ち歩いている。白人のアメリカでも黒人のアメリカでもない「一つのアメリカ」、「イエス、ウィ・キャン!」というオバマのメッセージである。

 ウォルト・ディズニーによるリッチ・ムーア監督『ズートピア』(2016年)は、文明化した肉食動物と草食動物の共存する世界を描いている。主人公の少女はウサギ初の警察官になる。しかし、ズートピアにもさまざまな偏見が渦巻いており、主人公はそれに立ち向かう。これも「一つのアメリカ」、多様性の尊重、差別の克服というわかりやすいメッセージを発しており、とくに、向上心旺盛な主人公は、女性初の大統領をめざしたヒラリー・クリントンを連想させよう。

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著者紹介

村田晃嗣(むらた・こうじ)

同志社大学法学部教授

1964年、兵庫県生まれ。同志社大学法学部卒業。98年、神戸大学博士(政治学)。99年、『大統領の挫折』(有斐閣、1998年)でサントリー学芸賞、2000年、『戦後日本外交史』(共著、有斐閣、1999年)で吉田茂賞を受賞。13年4月から16年3月まで同志社大学学長を歴任し、現職。著書に『レーガン』(中公新書、2011年)など。


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