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畑正憲 たばこと生きる力

2017年03月08日 公開
2018年12月12日 更新

畑正憲(作家)

一律の規制が文明を退化させる

――たばこのほかに畑先生が感じる社会の歪みとは。

(畑)最近はよく同一労働・同一賃金とかいうでしょう。やれ残業させちゃいかん、徹夜させちゃいかんとか。それではたして社会が成り立つのか、疑問に思いますね。

同一労働・同一賃金が成立する社会なんて、チャップリンの『モダン・タイムス』の世界ですよ。昔の工場みたいに単純労働であれば同一労働・同一賃金でいいでしょうけど、たとえば作家の僕と大学を出たばかりの労働者が動物の話を書いて、同一労働で同じ原稿料を払いますか? 僕はできません。何いってんだ、って文句をいいますよね。

働き方に十把一絡げの規制を設けず、存分に好きなだけ働ける方向をめざしたほうがいいですよ。

――悪平等ですね。たしかに、おっしゃるように8時に始めて5時に終わる仕事ばかりでは世の中、成り立ちません。

(畑)でしょう。僕は大学を卒業して学習研究社(現・学研ホールディングス)の映像部門に入って、理科関係を中心にした学習映画の作製に携わっていました。

入社してみるとその仕事が面白くって、とにかく新しい事をやりたい。「何か新しい事はありませんか」というと、上司が「じつは、こういう事をやりたいんだけど」といってくる。

その一つが、接写でカエルの卵を微速度撮影する学習映画の製作でした。カエルの卵を極限まで接写して、卵が分割していく様子を微速度撮影で撮るんですよ。

卵が分割し始めておたまじゃくしになるまで何日かかると思います? 21日かかるんです。それなら担当の僕が21日間、寝られないのは当然じゃありませんか。撮影を決めた時点で、わかり切っていることです。

――一律に働き方を規制されるとやりづらい仕事です。

(畑)カエルの卵一つを撮影するために、0・01㎜の精度が求められる箱を作らないといけない。箱の中に特別な液体を入れて、きれいに撮像できるように光の位置をセッティングできる人間、卵に埃一つ付着しないように扱える人が必要なんですけど、代わりは誰もいない。世の中には代えの利かない仕事もあるってことなんですよ。

――たばこに限らず、つまらない規制が増えました。

(畑)つまらない規制をするから社会に歪みが出てくる。そして規制すればするほど歪みが拡大するんですよ。この状況は明らかに文明の進化ではない。文明の退化であり、風化ですよ。

人間は一人ずつ違っていて、才能も体力も違うし、仕事のやり方も違う。それをみんな一律にしようとするから、間違いが起こるんです。そんな社会に生きていて何が楽しいのか、と思いますね。

著者紹介

畑 正憲(はた・まさのり)

作家

1935年、福岡市生まれ。東京大学大学院で生物を研究。会社員を経て著作活動を始め、「ムツゴロウさん」の愛称で親しまれる。77年に菊池寛賞、2011年に日本動物学会動物教育賞を受賞。

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