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岡村青 どうなる?豊洲移転

2017年07月03日 公開
2017年07月03日 更新

岡村 青(ジャーナリスト)

置き去りにされる場外業者の声

移転延期の衝撃

 築地卸売市場(東京都中央区)の豊洲(江東区)移転が迷走し、混沌としている。小池百合子都知事が、当初予定された2016年11月上旬の豊洲移転を延期することを表明したからだ。移転延期の理由は、土壌汚染の懸念が払拭されない、事業費の不透明な高騰化、さらに、一部市場棟の床下は盛り土がされておらずコンクリート空間になっている、など杜撰な工事の実態が露呈したというものだ。

 施設の老朽化や狭隘化などから築地市場の移転問題は1980年代からあったが、移転先が難航し遅々として進まなかった。そこに、操業を停止した東京ガスの工場跡地が候補地に浮上。候補地は築地市場から南東に約2・5㎞。築地市場の2倍の広さをもつ。そこで都は2001年12月、豊洲移転を決定。2014年2月、工事着工。同年12月、舛添要一前都知事は移転を2016年11月7日と決定する。

 ところがこの過程で、移転先の豊洲市場敷地にはベンゼンやシアン、六価クロムなど人体に有害な物質が含まれていることが判明する。そこで都は土壌汚染対策として土壌の入れ替えや盛り土を実施。けれど豊洲市場の地下水モニタリング調査の最終結果が出るのは2017年1月。したがって11月の移転段階では安全性が確認されたとはいえず、時期尚早と判断された。

 そのうえ、さらに水産仲卸市場棟、青果物棟など5棟の地下は盛り土がされず、土壌汚染対策を放置。コンクリート空間になっていることが明らかになった。

 このようなことから豊洲市場移転に対する都民の不信感は強く、小池都知事の移転延期表明となったのだが、延期は新市場入居予定の仲卸業者に少なからず衝撃を与えた。

 570余社の水産仲卸業者でつくる東京魚市場卸協同組合(東卸、伊藤淳一理事長)などは都の方針と歩調を合わせて移転を進めてきただけでなく、入居後の稼働に向けて設備の新調、店内新装などの準備を進めてきた。それだけに移転を目前にした延期はこれらの中断を迫るものであり、困惑するのだ。

 

場外市場業者とは

 けれど一方では、築地市場の豊洲移転延期に胸をなでおろす業者もいる。場外市場の業者たちだ。築地市場移転で生じる業務用専門業者や飲食店関連業者の豊洲市場流出、客離れを引き留められるからだ。

 場外市場の業者とは、場内業者の対語だ。築地市場には市場の内側で営業する水産物や青果物の業者がおり、これをいわゆる場内業者という。これに対し市場の外側で営業する小売業や卸問屋の業者がおり、これを一般に場外市場業者という。したがって、両者の違いは扱う商品や客層の面にも表れている。

 場内業者には卸業者と仲卸業者の、業種の異なる2つの業者が併存している。

 ついでに水産物や青果物が私たち末端の消費者に届くまでの大まかな流通経路を示すと、市場に集められた各地の魚介類や野菜は卸業者によって競りにかけられ、仲卸業者が競り落として購入。仲卸業者から今度はスーパーや街場の小売店あるいは飲食店などが買い付け、消費者に届くという流れになる。

 したがって、場内業者の取引相手はいわゆるプロの業務用専門業者であり、一般消費者向けの店頭販売はしていない。また、場内業者とはこの仲卸業者を指す。

 一方、場外業者は、プロの専門業者はもちろん一般消費者も受け入れているため、普通の小売店と変わらない。扱う商品も、場内業者は大型商品、大量仕入れが主流。場外業者は小物商品、小口販売が主だ。したがって、場内業者と場外業者は棲み分けができており、共存関係ができている。ところが、この共存関係が危うくなっている。築地市場の豊洲移転は共存関係に亀裂を生じさせるものだからだ。そのため場外業者は築地市場の豊洲移転が現実となるにつれて疑心暗鬼に駆られ、戦々恐々としている。それというのも、両者は共存関係にあるとはいえ、後者の多くは築地市場に依存しているのが実情だからだ。

 専門業者のメインの仕入れは市場内で行なわれる。場内で入手できれば、場外業者に依頼することはない。ただし場内では入手が容易でないものもある。たとえば刺し身のツマ、おでんのタネ、薬味、干物、のり昆布、珍味などだ。このような小物は場外業者から調達する。つまり、場内での買い付けが目的の事業者が場外市場に回り、場内では入手困難な小物類の要望に場外業者が応えているのだ。

 場外業者は築地市場が存在してこそ成り立つという側面もあり、人・モノ・立地環境などの面で大きく依存している。

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