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<連載>「パラアスリートの肖像」第2回 11歳の右腕へ <芦田創(陸上選手)>後編

2017年10月11日 公開

山田清機(ノンフィクション作家)、人物撮影=尾関裕士

 

「義足のレジェンド」との出会い

 話は前後するが、インターハイ予選出場前、芦田は大阪体育大学での合宿に参加している。

 合宿の筋トレのメニューのなかに「手押し車」があった。2人1組になり、一方が相手の両足首を持って脚を持ち上げ、もう一方が腕だけで前に進むトレーニングだ。むろん、芦田に手押し車は無理だ。

「お前、なんでやんねーの」

 振り返ると、坊主頭の男が立っていた。「義足のレジェンド」こと山本篤である。山本は2008年の北京パラリンピックで走り幅跳びに出場し、日本人の義足陸上競技選手として初のメダルを獲得。大体大のOBで、同大のグラウンドを練習拠点にしていた。

「僕、腕が悪いんで」

 芦田がこう答えると、山本の目がキラリと光った。

「お前、パラ来いよ。お前、本当に強えーから」

 芦田は心の中で呟いた。

(なんや、パラって)

 当時、インターハイに向けて猛練習に励んでいた芦田にとって、パラリンピックは「障害者のスポーツ大会」でしかなかった。

「当時、僕の自己ベストは50秒88でした。インターハイの予選が48秒から49秒の前半ぐらい、決勝は46秒の後半から47秒の勝負になるのですが、2011年当時のパラの記録だと、僕の自己ベストで世界ランキング4、5位、翌年のロンドンパラでメダルを獲れるレベルでした。必死で“全国”をめざしているときに、いきなり“世界”っていわれてもピンときませんでした」

 芦田が「一度パラの大会に遊びに行きます」という社交辞令を山本に伝えて、その場はお開きとなった。

 その後、インターハイの予選で敗退すると、芦田のなかで陸上は「終わったもの」になってしまった。7月に日本パラ陸上日本選手権が大阪であることを知った。山本との約束もあって、400m走にエントリーしたが、ほぼ2カ月間、まともに練習をしていなかった。

 結果は、51秒30の日本新記録(T46)で優勝。ロンドンパラリンピックに出場できるタイムだった。

「おもんない」

 レースとして、面白くなかった。

「あのとき、腕の障害で400に出たのは僕だけだったので、(クラスの違う)義足の人と一緒に走ったのですが、みんな国際大会の参加記録を切りに来てるだけだし、僕はひとりで走っているようなものだったので、競争力がまったく生まれなかったんです」

 芦田のいう競争力とは、競い合うことによって記録を伸ばす力、という意味だろう。

 高校3年でいきなりパラの日本新記録を出してしまった芦田は、天狗になってパラの世界を甘く見た。12月に早稲田大学への推薦入学が決まると、芦田はやることがなくなってしまった。3月、卒業旅行を兼ねて母親の智恵と一緒にオーストラリアへ“初遠征”に出かけることにした。

 パラリンピックに出場するには、「国際クラス分け」を受ける必要がある。それがないと国際大会に参加できないばかりでなく、国内で出した記録が世界的に通用しない。芦田が出した51秒30の日本新記録は、残念ながら国際クラス分けを受ける前の記録だったのだ。

 芦田は、オーストラリアの大会に参加して国際クラス分けを受け、ロンドンパラリンピックの参加標準記録を切ってくるつもりだった。ところが……。

「まったく練習しないで走ったら、52秒08という記録しか出ませんでした。ロンドンパラの参加標準記録を切れなかったのです。しかもそれが、悔しくもなんともなかった。もう、陸上はいいやという気持ちでした」

 やる気スイッチは、まだ入らない。

 

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著者紹介

山田 清機(やまだせいき)

ノンフィクション作家

1963年、富山県生まれ。1987年、早稲田大学政治経済学部卒業。鉄鋼メーカー、出版社 勤務を経て独立。著書に『卵でピカソを買った男』(実業之日本社)、『青春支援企業』(プレジデント社)、『東京タクシードライバー』『東京湾岸畸人伝』(ともに朝日新聞出版)など。

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