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<連載>「パラアスリートの肖像」第5回 全盲のレジェンド <河合純一(日本身体障がい者水泳連盟会長)>前編

2018年01月10日 公開

山田清機(ノンフィクション作家)、人物撮影=尾関裕士

 

(前回までの内容はこちらから)

 

浜名湖の畔にある舞阪という町は平坦で、取り立てて高い建物もなく、穏やかな雰囲気を湛えた町である。

 数時間訪れただけでこんな評価を下すのは安直に過ぎるかもしれないが、汽水湖である浜名湖が海と接する今切(いま切れたという意味らしい)の東側に広がるこの町が、魚介類の豊富な浜名湖の恩恵を存分に享受してきた地域であることは間違いない。

 この舞阪町の出身でパラ水泳界のレジェンドと呼ばれる全盲のスイマー、河合純一(42歳)を取材したいと思ったのは、前回登場してもらった一ノ瀬メイが、インタビューの最後にポツリと言った言葉が頭にひっかかっていたからである。

「東京パラのおかげで、パラスポーツへの注目度は高まってきたけれど、必ずしも私がいいと思う方向には変化していない」

 私は一ノ瀬への取材を通して、障害の「社会モデル」と「個人モデル」という言葉を知った。社会モデルとは、障害を克服すべき個人の問題と捉えるのではなく、「障害を障害たらしめているのは社会である」という考え方だと理解した。つまり、障害とは決して固定的なものではなく、社会の側が変化していけば、それはやがて障害ではなくなるのだと。

 この考え方に大きく首肯しつつも、私にはまだモヤモヤとしたものが残っていた。そのモヤモヤは、どこかで一ノ瀬の「いいと思う方向には変化していない」という言葉と繋がっている予感があった。

 たとえば、パラアスリートが超人的な能力を発揮して、健常者と同等かあるいはそれを超えるパフォーマンスを示すことと、社会モデルとは、いったいどう繋がるのかという疑問が私にはある。

 健常者がパラアスリートのパフォーマンスに賞賛の拍手を送るのは、障害があるにも〝かかわらず〟、彼らが障害を乗り越えてきたからではないだろうか。だとすれば、パラアスリートが示す超人的な能力への賞賛は、障害の社会モデル的な解消ではなく、むしろ障害の固定化に寄与することになってしまう危険性はないだろうか。

「共生社会」という、何の疑いもなく善きものとして掲げられている標語は、じつは、障害が障害ではなくなる社会と、どんな障害を抱えていても自助努力によって健常者と同等になれる社会という、正反対の理想像を内包している。パラアスリートたちは、果たしてどちらの社会の実現に貢献しようとしているのか?

 河合は全盲というハンディキャップを克服して、いくつもの夢を実現してきた人物であると評されてきた。全盲のレジェンドは、いったいどのような障害観をもち、どのような共生社会を思い描いているのか、尋ねてみたかったのである。

 

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著者紹介

山田 清機(やまだせいき)

ノンフィクション作家

1963年、富山県生まれ。1987年、早稲田大学政治経済学部卒業。鉄鋼メーカー、出版社 勤務を経て独立。著書に『卵でピカソを買った男』(実業之日本社)、『青春支援企業』(プレジデント社)、『東京タクシードライバー』『東京湾岸畸人伝』(ともに朝日新聞出版)など。

河合純一(かわいじゅんいち)

日本身体障がい者水泳連盟会長

1975年生まれ。静岡県浜松市(旧浜名郡舞阪町)出身。先天性の弱視があり、15歳で全盲となる。パラリンピック水泳で92年バルセロナから2012年ロンドンまで6大会連続で出場し、メダル21個(金5、銀9、銅7)を獲得した。現在は、日本スポーツ振興センターに研究員として勤務。また、日本身体障がい者水泳連盟、日本知的障害者水泳連盟、日本ろう者水泳協会の3団体でつくる「日本障がい者水泳協会」の会長や、パラリンピックに出場したアスリートでつくる「日本パラリンピアンズ協会」の会長も務める。 

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