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<連載>「パラアスリートの肖像」第6回 全盲のレジェンド <河合純一(日本身体障がい者水泳連盟会長)>後編

2018年02月10日 公開

山田清機(ノンフィクション作家)、人物撮影=尾関裕士

 

(前回までの内容はこちらから)

 

 

 河合純一が卒業した筑波大学附属視覚特別支援学校(河合の入学当時は、筑波大学附属盲学校)は、地下鉄有楽町線の護国寺駅から徒歩5分ほどの距離にある。

 晴眼の人間は難なくたどり着ける道のりだが、同校のホームページの地図には、点字ブロックの位置と目標物までの距離が文章で詳細に記述されている。

 急な階段を上って左に折れると、校門で寺西真人が待っていてくれた。この学校の教諭であり、同時に水泳部の顧問として河合を育てあげた人物である。恰幅のいい寺西は「Japan」のロゴの入った短パンを穿いていた。

「Japanを着ていて困るのは、コンビニで変な雑誌とか買えないことかな(笑)」

 冗談を口にしながら、応接室に案内してくれた。フランクな人柄らしい。まずは、河合との出会いの様子を尋ねた。

「中学で水泳をやっていた子が入ってくるのは聞いていたんだけれど、それより、口頭試験で受かったってことのほうが話題になっていました。うちは点字で受けようと口頭で受けようと点数でバッサリ切っちゃうから、口頭じゃなかなか受からないんですよ」

 中3で失明した河合は、点字を読む訓練を受けていなかったのだ。しかしなぜ、口頭のほうが難しいのだろう。

「たとえば、国語の長文問題を考えてみてください。試験官が問題を読み上げるわけだけど、穴埋め問題とかあるわけです。かっこ一、かっこ二が文章のどこに入っていたかを覚えておいて、問題の読み上げが終わったら、かっこの中に入る語句を口頭で答えていくんです。相当頭がよくないと受からないですよ」

 第一印象はどうだっただろう。

「生意気な奴だったよね(笑)。パラじゃなくてオリンピックに出るって言い張ってたからね。要するに障害受容がまだできていない、イキがった子でした」

 寺西によれば、河合は点字だけでなく白杖を使った歩行訓練も受けていなかったから「手引き」を必要とした。手引きとは肩に手を置かせてくれ、道案内をしてくれる存在だ。舞阪の実家にいたときは友人や実弟の圭二が手引きをしてくれたが、寄宿舎生活を送る附属盲学校では、常に手引きをキープしておかなければ日常生活を送るのが難しい。

「ブラインドの子は手引きを見つけたり、縄張りを守ったりしないと生活していくのが大変なんです。河合はあの手この手で、手引きの子を確保していました。だから俺と気が合ったのかな(笑)」

 寺西の河合評がすべてだとは思わないが、寺西の目に映っていた河合は相当な〝人たらし〟だった。

「河合と話していると、いつの間にか手伝わされてしまうんですよ。河合にはほかに誰もいないんだから、俺が支えてやらなくちゃいけないんだという気持ちにさせられてしまう。俺、河合に会って人生変わったんですよ」

 

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著者紹介

山田 清機(やまだせいき)

ノンフィクション作家

1963年、富山県生まれ。1987年、早稲田大学政治経済学部卒業。鉄鋼メーカー、出版社 勤務を経て独立。著書に『卵でピカソを買った男』(実業之日本社)、『青春支援企業』(プレジデント社)、『東京タクシードライバー』『東京湾岸畸人伝』(ともに朝日新聞出版)など。

河合純一(かわいじゅんいち)

日本身体障がい者水泳連盟会長

1975年生まれ。静岡県浜松市(旧浜名郡舞阪町)出身。先天性の弱視があり、15歳で全盲となる。パラリンピック水泳で92年バルセロナから2012年ロンドンまで6大会連続で出場し、メダル21個(金5、銀9、銅7)を獲得した。現在は、日本スポーツ振興センターに研究員として勤務。また、日本身体障がい者水泳連盟、日本知的障害者水泳連盟、日本ろう者水泳協会の3団体でつくる「日本障がい者水泳協会」の会長や、パラリンピックに出場したアスリートでつくる「日本パラリンピアンズ協会」の会長も務める。 

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