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養老孟司 平成とは、万事が煮詰まった時代

2018年02月21日 公開
2022年06月27日 更新

養老孟司(解剖学者)

解剖学者の養老孟司氏が、平成を語った。曰く、平成とは万事が煮詰まった時代、史上いつでもあったある「問い」が正面が出てきた、と――。


 まず結論を先に書く。平成には万事が煮詰まった。

 エネルギーでは、再稼働はともかく、原発の新規建造は望めなくなった。福島原発の事故は、将来にわたって傷跡が残る平成の大事件であろう。あとはシェール、水力、風力、太陽光、バイオ、あらゆる手を尽くして、ボチボチやるしかない。

 人口も煮詰まって、いよいよ減り出した。誰もそれを意図したわけではない。でもひとりでにそうなった。経済はここ20年以上、停滞というより縮小である。実質賃金はここ20年で15%減少したという。預金に利息が付かない。金が金を生まなくなった。資本主義の終焉ともいわれる。

 根本の原因は実体経済の飽和であろう。経済活動が煮詰まった。総需要の不足が言われる。つまり投資先がない。技術的な供給能力が大きいので、新規分野が発生しても、アッという間に煮詰まってしまう。スマホが好例である。売り始めてから、小学生が持つようになるまでが、平成年間に収まってしまう。

 金融経済のように、お金を使う権利の移動ではなく、生活が豊かになる意味での実体経済が飽和した。生活が豊かになるのは、自然からの収奪以外にありえない。エネルギーや食糧を考えればわかる。お金に目を奪われると、それが見えなくなる。お金は単に使う権利だから、それ自体は何も生み出さない。100億円あっても、食物がなければ飢え死にする。でもお金のために、畑や作物を貧相にしていくことは、グローバルに行われてきた。そのやり方もボチボチ煮詰まった。

 まだ、やろうとしている人たちがいることは知っている。でも自然は必ず報復する。それを自然災害と呼んでいるが、地震はともかく、気候変動では人為が疑われている。

 というわけで、次はいまだに煮詰まっていないものは何か、ということになる。「平成とはどういう時代だったか」が与えられた設問だから、未来を論じるのは余計なお世話である。入試の答案なら減点か。でも時はひたすら流れる。ある時代を論じれば、次代に続かざるをえないのは当然である。

 解答はヒト自身でしょうね。自分がそもそも何者であるのか、人生いかに生きるべきか、人類の将来はどうなるのか、それがわからなくなった時代である。というより、すべてが煮詰まったから、史上いつでもあった、その種の問いが正面に出てきた。

※本記事は養老孟司著『半分生きて、半分死んでいる』(PHP新書)を一部、抜粋したものです。全文は同作をご覧ください。

著者紹介

養老孟司(ようろう・たけし)

解剖学者

1937年、神奈川県生まれ。東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。95年、東京大学医学部教授を退官し、同大学名誉教授に。89年、『からだの見方』(筑摩書房)でサントリー学芸賞を受賞。著書に、ベストセラーとなった『バカの壁』(新潮新書)ほか多数。

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