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気鋭の経済評論家・渡邉哲也が予測する、知らなきゃヤバい!「米中貿易戦争」のゆくえ

2018年04月13日 公開
2022年10月27日 更新

渡邉哲也(経済評論家)

米中対立が日本経済に及ぼす影響とは?

――なるほど。これから「貿易戦争」が起こりうるという前提に立ち、今後、トランプ大統領の「標的」になりそうな品目はありますか?

渡邉 可能性が高いのはニッケルなどの希少金属です。中国がアフリカのニッケル鉱山を買収したということが話題になっており、ニッケルも安全保障上の脅威を理由に輸入を制限する可能性はあります。これまで太陽光パネルや洗濯機などで緊急輸入制限(セーフガード)を発動していましたが、そうした周辺からついに中核に狙いを定めてきたといえます。

 もう一つ、自動車に関していえば、EUに対しても輸入関税の問題が出ています。現在、アメリカからEUに輸出の場合、自動車関税は10%、EUからアメリカの場合は、普通車が2・5%、ピックアップトラック(商用車)が25%という二段階です。仮にEUが関税を引き上げれば、アメリカも報復で高くすると主張しています。

 トランプ大統領は元ビジネスマンですから、最初にある程度条件をつけて、そこから落とし所を見つけていくように思います。

――ちなみに、今回のアメリカの鉄鋼・アルミニウムの輸入制限について、日本にはどの程度の影響が予想されるでしょうか。

渡邉 日本は輸入制限発動時(2018年3月23日)には適用除外国となりませんでした。最終的な適用除外国は4月末に決定されますが、もし、除外されなかったら当然、日本の鉄鋼やアルミニウムの輸出量は減るでしょう。たしかに、製品の最終出荷地がアメリカだった場合には何らかのダメージを受けますが、ダメージは短期的といえます。

 輸出制限の適用除外になればこれまでと同様の価格で輸出できますし、しかも他国は高い関税が掛かるので多少売りやすくなるメリットはあります。ただ今後、日本からのアメリカ向けの鉄鋼やアルミの輸出が急激に増えるかというと、それほど期待はもてないでしょう。

――ダメージはわずかにせよ、大きな実利は期待できないということですか……。

渡邉 何もガッカリすることはありません。米中による関税の掛け合いも、短期的な視点に立てば、日本にプラスに働く可能性があります。関税が掛けられた中国の品目以外の製品については、日本の輸出が増えるかもしれないからです。

 輸入規制が掛かることによって中国からの自動車、たとえばフォルクスワーゲンが中国で製造した自動車がアメリカに入ってこなくなれば、日本の自動車メーカーはアメリカでつくっているわけですから、それは必然的に販売機会の増大につながるといえます。

 もちろん、トランプ大統領が行なった保護主義的な政策は、時計の針がクオーツ時計のようにピンと一個進んだというだけの話で、大きな流れは変わっていません。「日本だけ特別待遇」はないことを肝に銘じるべきでしょう。

 

「森友・加計問題」を報じている場合ではない

――先ほど「政治と経済は表裏一体」と述べられましたが、政治背景がわかると、各国の次の一手が予測できるというわけですね。しかしながら日本国内に目を向けると、ワイドショーはいまだに、野党による「森友・加計問題」の追及一色。米中対立がもたらす日本経済への影響を報じるメディアは皆無に等しく、たまにトランプ大統領のツイート(つぶやき)を紹介する程度です(笑)。

渡邉 近年の日本メディアの落ちぶれには、私も強い危惧も抱いています。ご存じのとおり、2016年にトランプ政権が誕生して以来、世界経済は目まぐるしく変化しています。トランプ大統領の言動や、それに対する日本の反応を報じられるまま受け止めていては、経済の動きを見誤ってしまいます。

 また、「アメリカ・ファースト=国家主義の強まり」などと漠然とした情報だけを知っても、自分の会社や取引先にどういった利益、不利益をもたらすかを正確に予測できるわけでもありません。

 ところが、ニュースや新聞は経済の流れを断片的、一面的でしか捉えません。ネットのニュースは、とくにその傾向が強く見られます。それ以前に、新聞やニュースが必ずしも正しいことを伝えているとは限らないということを念頭に置くべきです。

 真のビジネスエリートや一流の投資家は、情報の真偽を見極めるのはもちろん、自分たちが優位にビジネスを進めるために、ニュースの背景から世界経済の流れを読み解くことを習慣づけています。世界各国と取引する日本のビジネスパーソンなら、こうした情報の取得を心掛けるべきでしょう。

――『「米中関係」が決める5年後の日本経済』(PHPビジネス新書)では、冷戦構造の崩壊からリーマン・ショックを経て、再び「冷戦時代」を迎えるまでの過程で、米中が対立構造に至った背景もわかりやすく解説されています。Q&A形式で読み進めることができる、まさに「米中関係の入門書」ですね。

渡邉 リーマン・ショックは、いまからちょうど10年前に起きました。当時、アメリカで何があったか、その前後の中国はどう動いたかをつぶさに追っていた方なら、現在の米中対立の顕在化は容易に予測できたはずです。過去を知ることで現在がわかり、未来を予測できるのです。現在の米中関係をしっかり押さえていれば、5年後、10年後の日本の姿、世界経済の様相もおのずと見えてくるでしょう。

 その意味で本書は、これまであまり新聞を読んでこなかった若年層から、家でワイドショーしか観ない高齢の方まで何かしらの学びと気付きを得られる一冊だと思います。ありがたいことに、著作も50冊を超えました。これまで私の本を読んでいただいた読者への感謝とともに、新境地を開く役割を本書が担うことを願っています。

 

(本記事は、『「米中関係」が決める5年後の日本経済』を一部抜粋し、編集を加えたものです)

著者紹介

渡邉哲也(わたなべ・てつや)

経済評論家

1969年生まれ。日本大学法学部経営法学科卒業。貿易会社に勤務した後、独立。複数の企業の運営などに携わる。国内外の経済・政治情勢のリサーチおよび分析に定評がある。主な著書に『世界と日本経済大予測』シリーズ(PHP研究所)などがある。

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