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猪瀬直樹 加熱式たばこで何が悪い

2018年05月24日 公開
2022年10月13日 更新

猪瀬直樹(作家/元東京都知事)

イノベーションを否定する人たち

――たしかにいま目の前で吸われていますが、非喫煙者の私もまったく気になりません。

猪瀬 いちおう吸わない人のために加熱式たばこの仕組みを説明すると、たとえばプルーム・テックの場合、「たばこカプセル」「カートリッジ」「バッテリー」の3つが1本につながっています。

たばこカプセルのついたカートリッジにバッテリーを嵌めてカプセル内のたばこを吸う。加熱式たばこは煙ではなく蒸気(ベイパー=Vapor)を吐き出すので、周囲への迷惑も少ない。プルーム・テックの加熱温度は30度。この点だけを見ても、従来の受動喫煙問題の対象である紙巻たばことはまったく別物だとわかります。

有害物質(たばこの煙に含まれる物質のうち、健康に懸念があるとされるベンゾピレンやホルムアルデヒドなど)は99%カットされている。バッテリー部分のLEDが青く点滅するとカプセルの交換時期で、赤く点滅すると電池切れ。携帯電話と同じく、アダプターをコンセントにつないで充電すればよい。

ひと昔前なら単3、単4電池を入れていたところが、ここまでスマートなかたちになったわけです。ひとえに充電池の技術のおかげ。中身を吸い終わったカプセルは空き箱に入れればいいので、ポイ捨てをする必要もありません。  

――非喫煙者が知らないあいだに、これほど加熱式たばこが進化しているとは……。  

猪瀬 喫煙する立場としては、加熱式たばこでまったく問題ない。先日、飲食店に行ったらお店の入り口に「禁煙」の表示と併せて「アイコスOK」と書いてある。店内には紙の灰皿が置いてあり、吸い終わったヒートスティック(たばこ部分)を入れるようになっていました。

――実際にプルーム・テックやアイコスなど、加熱式たばこに対応するお店が増えてきました。

猪瀬 さらにいえば、加熱式たばこは新たな商品であると同時に、新規のビジネスモデルでもある。バッテリーはいわば携帯電話の本体に相当します。

値段はプルーム・テックは5000円弱、アイコスは1万円ほど。その一方でカプセルとカートリッジは使い捨てだから、継続費用が発生する。これは携帯電話でいえば通信費に相当する部分で、よく考えられていると思う。こうしたイノベーションを開発した人間の発想や努力は貴重で、認めるべきでしょう。

――にもかかわらず、しきりに「加熱式たばこは紙巻たばこと同じだ」と訴えるキャンペーンを新聞やインターネットで目にします。たとえば2017年7月21日、日本禁煙学会が「『加熱式電子タバコ』は、普通のタバコと同様に危険です。受動喫煙で危害を与えることも同様で、認めるわけにはいきません」と発表しました。

猪瀬 イノベーションを頭から否定するのは人類の進化を止めることで、じつに愚かな振る舞いです。従来型の受動喫煙問題は事実上、加熱式たばこの誕生で解消されている。

ところが古い考えに囚われた人たちは、技術の進歩を前提に議論をしない。この時点でアウトだと思いますね。喫煙する側の歩み寄りや配慮、社会の問題を改善するための知恵やビジネスの発想をいっさい認めず、ただこの世からたばこを撲滅すればよい、と思っているのだから。

――あまりにも偏狭で単純な考えですね。

猪瀬 だからこそ、一律全面禁煙の主張は「禁煙ファシズム」と呼ばれるわけです。

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著者紹介

猪瀬直樹(いのせ・なおき)

作家/東京都副知事

作家。1946年、長野県生まれ。1987年『ミカドの肖像』で第18回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。『日本国の研究』以降、特殊法人等の廃止・民営化に取り組む。小泉内閣で道路関係四公団民営化推進委員会委員、地方分権推進委員会委員等を歴任。2007年より東京都副知事。近著に、『言葉の力』(中公新書)がある。

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