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<連載>「パラアスリートの肖像」第9回 平昌パラリンピック体験記

2018年05月11日 公開

山田清機(ノンフィクション作家)、人物撮影=尾関裕士

 

(前回までの内容はこちらから)

 

平昌パラリンピック開会式をみつめる筆者

 

厳寒の平昌開会式

 2018年3月9日午後7時。

 前を走る観光バスの赤いテールランプ以外、ほとんど何も見えないほどの濃い霧のなか、平昌パラリンピックの開会式が開催されるオリンピックスタジアムに向かいながら、私は不思議な感覚にとらわれていた。

 会場名に「パラ」の2文字が入っていないことも不思議だったが、車窓からよく目を凝らしてみると、会場を目指す道路の周囲は一面の雪原である。平昌は韓国最寒の地と呼ばれる標高1000mほどの高地にあり、オリンピックスタジアム周辺の外気は間違いなく0度を下回っているはずだ。

 そんな極寒のなかを、何十台、何百台もの観光バスや乗用車が連なって――黙々と、というのもおかしいが――スタジアムを目指しているのは、いったい何のためなのだろう。人々はいったい何を求めて、そこに集まろうとしているのだろうか。そんな思いがしきりにわき上がってきたのである。

 会場の入り口に到着すると、五輪旗の五色のLEDで彩られたエントランスのゲートはすでに観客ですし詰め状態。欧米系の人は少なく、聞こえてくるのはほとんどが韓国語と中国語である。

 空港並みに厳重なセキュリティーチェックを受けて(密かに持参したアルコールは没収された)会場内に入ると、何台もの投光器がスタジアムの上空にたちこめる濃霧に幾本もの光の筋を描き、その光の筋が大音量の音楽に合わせて動き回っている。スタジアムの壁面が、ピンク、青、緑と次々に色を変えていく。スタジアム全体が、異様な興奮状態に包まれているようだった。

 午後8時、開会式が始まる。

 プログラムは、想像していたよりもはるかに素晴らしいものだった。

 純白の民族衣装を着た人々の太鼓の演奏も、スタジアムの上空に吊られた巨大な花びらのオブジェが下降しながら輝く球体に変化していく演出も幻想的で美しかったが、なんといっても感動的だったのは、やはり選手団の入場行進であった。

 車椅子の選手や杖をついた選手たちが大観衆に向かって精一杯手を振る姿を見ているうちに、自然に涙がこぼれてきた。自分のなかに根強くある差別や偏見が体から溶け出していくようなカタルシスを、たしかに感じることができたと思った。

 私はこれまで、パラスポーツの国内大会をいくつか取材してきたが、どの大会も観客は数えるほどしかおらず、しかも観客の大半が選手の家族と関係者で占められているのが常だった。しかし、この開会式に集まっている人々の大半は、この興奮と感動を味わうために集まってきた〝一般客〟だろう。

 よく、「オリンピックは特別な舞台だ」というアスリートの言葉を耳にするが、一般客が大挙して押しかけるパラリンピックも間違いなく「特別な舞台」なのだ。そしてこの舞台を一度経験してしまったら、多くの選手が「夢よもう一度」と願うに違いない。その夢を2大会ぶりに実現させたパラアイスホッケー日本代表の戦いぶりを見定めることも、今回の平昌取材の大きな目的のひとつである。

 配布されたポンチョや使い捨てカイロといった防寒グッズの効果もむなしく、寒さに耐え切れなくなった観客が聖火の点火と同時に次々とスタンドを離脱していく。

 濃霧のなかに色鮮やかな花火が数発打ち上げられて、厳寒のなかの一大ページェントは幕を閉じた。

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著者紹介

山田 清機(やまだせいき)

ノンフィクション作家

1963年、富山県生まれ。1987年、早稲田大学政治経済学部卒業。鉄鋼メーカー、出版社 勤務を経て独立。著書に『卵でピカソを買った男』(実業之日本社)、『青春支援企業』(プレジデント社)、『東京タクシードライバー』『東京湾岸畸人伝』(ともに朝日新聞出版)など。

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