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宇都宮徹壱 サッカー日本代表「終わりの始まり」

2018年06月06日 公開
2018年06月06日 更新

宇都宮徹壱(ノンフィクションライター)

「日本化」の結果どうなったか

西野新監督(右)と田嶋会長 ©tete_Utsunomiya

前述したように、後任監督の西野氏は、日本国内で最も実績のある指導者である。96年のアトランタ五輪では、ブラジル代表を相手に「マイアミの奇跡」と呼ばれる、大番狂わせを演じたことでも有名だ。

その後、4つのJクラブを指揮して、リーグ優勝1回、ナビスコカップ(現ルヴァンカップ)と天皇杯で2回ずつ優勝、ACL(アジアチャンピオンズリーグ)も制している。2回のJリーグ最優秀監督賞に加えて、アジアの最優秀監督賞も獲得。タイトルの数では、まったく申し分ない。しかし一方、短期間でチームを立て直す実績に乏しい点については、不安材料といえる。

西野新監督の就任会見が行なわれたのは、衝撃の解任会見から3日後の4月12日、場所は同じJFAハウスであった。会見での注目点は、西野新監督が前任者から何を受け継ぎ、どんなサッカーをめざすか、である。

ハリルホジッチ前監督のサッカーの特徴について、これまでよく語られてきたのは「縦に速いサッカー」と「デュエル(球際での攻防)」そして「フィジカル」である。

とはいえ、これらは前監督の好みによるものではない。「縦に速いサッカー」は、劣勢に立たされる日本が活路を見出すための方策であり、「デュエル」と「フィジカル」は基本中の基本。いずれも世界と戦うために、ハリルホジッチ監督が選手たちに求め続けたものであった。

これに対して、西野新監督が強調していたのが「日本化」あるいは「日本人(の特性)」であった。デュエルやフィジカルといった、前任者の方向性は継承しつつも「それでも、日本化した日本のフットボールというものがある」と主張。

「日本人選手たちのDNAのなかで、やれる部分はもっとある」あるいは「日本サッカーの良さ、強さはグループとしての強さだと思っています」と持論を展開した(ちなみに、スタッフ全員を日本人で固めることも併せて発表された)。

新監督としては、事ここに至って、むしろ日本人選手の強みとされる組織力や技術力、さらには俊敏性や献身性といったものに賭けるしかないと判断したのだろう。もちろん、そうした日本人の強みそのものを否定するつもりはない。

だが、思い出してほしい。いわゆる「日本らしさ」や「自分たちのサッカー」といったものを突き詰めて、4年前のW杯に乗り込んでいった結果、どうなったか? 日本のスタイルは木っ端微塵に蹴散らされ、われわれは絶望的なまでの世界との距離感を思い知ったのではなかったか。私にはどうにも、4年前の惨憺たる結果が、ロシアでも繰り返されるような気がしてならない。

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