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宇都宮徹壱 サッカー日本代表「終わりの始まり」

2018年06月06日 公開
2018年06月06日 更新

宇都宮徹壱(ノンフィクションライター)

W杯の楽しみが奪われた

ここまで読み進めてきて「それならなぜ田嶋会長は、こんな無謀な決断をしたのだろう?」という疑問が浮かぶことだろう。じつのところ本稿を依頼されたときも、「田嶋会長の真意を明らかにしてほしい」という要望があった。残念ながら、その答えは「わからない」というほかない。私だけでなく、同業者の多くが、JFAトップの真意を測りかねているのが実情である。

「スポンサーや大手代理店からのプレッシャーに屈したのではないか」という噂もまことしやかに語られている。が、噂はあくまで噂でしかない。その後の田嶋会長の言動を観察していると、むしろ「日本サッカーのために貢献したい」という、強烈な決意のようなものが感じられる。その並々ならぬ使命感が、さらにわれわれサッカーファンを当惑させるのである。

9日の会見で田嶋会長は「僕はこの危機をしっかりいい方向にもっていきたいと思います」と語っている。とはいえ「この危機」を招いたのは、ギリギリでのタイミングで解任を発表したJFAであり、さらにいえば田嶋会長自身ではないか。これを「マッチポンプ」といわず何といおう。

今後、W杯に向けての懸念材料は事欠かない。まず、日本代表が「自分たちのサッカー」に回帰したことで、これまで積み上げてきた強化プロセスが、一瞬にして瓦解した。結果として残るのは、日本サッカーの退歩である。

最新のFIFA(国際サッカー連盟)ランキング(2018年4月12日発表)では、日本は60位。W杯参加32カ国中、下から4番目である。世界のサッカーが目覚ましい進歩を続けているなか、日本はその潮流に逆行するかのように退歩を続けながら、6月の本大会を迎えるのである。

もうひとつ、個人的に大いに懸念していることがある。それは今回の不可解な決定により、サッカーファンのあいだに虚無感が蔓延していることだ。W杯の楽しみが問答無用で奪われた上に、前監督の追放に加担した(とされる)選手が誰なのかという疑心暗鬼も相まって、日本代表への眼差しは完全に冷めきったものとなりつつある。

そもそも最近のサッカーファンが、以前と比べて日本代表に依存する必要がなくなった点も見逃せない。Jリーグのほうが身近に感じられるし、テレビで観る欧州サッカーのほうがはるかにレベルは高い。今回の不可解な監督交代が、日本代表の「終わりの始まり」とならないことを、いまは切に祈るばかりである。

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