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<連載>「パラアスリートの肖像」第10回 ジレンマを生きる <江崎駿(ボッチャ日本代表強化指定選手)>前編

2018年06月12日 公開

山田清機(ノンフィクション作家)、人物撮影=尾関裕士

 

(前回までの内容はこちらから)

 

 

複雑なボッチャのクラス分け

たとえどのような言葉を使ったところで、自分は気楽な立場の人間でしかあり得ないのだろうと思いながら、江崎駿の父親、泰秀の話を聞いていた。

江崎駿(17歳)は日本ボッチャ協会の強化指定選手であり、日本ボッチャ界、期待の星である。2017年11月に開催された日本ボッチャ選手権大会本大会で準優勝し、12月のアジアユースパラ競技会(ドバイ)では、見事、金メダルを獲得している。

こうした戦績とその若さから、当然のごとく、東京パラリンピックでの活躍を嘱望されているわけだが、駿はあるジレンマを抱えている。そのジレンマとは、彼が属するBC4というクラスと深い関係がある。

リオデジャネイロパラリンピックで日本代表チームが銀メダルを獲得したことによって、ボッチャという競技の名前は広く知られるようになった。

ボッチャはコートに投げ込まれた白いジャックボール(目標球)に向かって、青い球と赤い球を投げ合い、どちらがジャックボールのより近い場所により多くの球を配置できるかを競うスポーツだ。

1エンドの持ち球は6個。得点の計算方法はカーリングと似ているが、大きく異なるのは、標的であるジャックボールに球をぶつけてジャックボール自体を動かしてもいい点と、相手よりジャックボールの近くに球を置けるまで連投しなければならない点だ。

一見、球を転がすだけの単純な競技だが、戦略の立案が勝敗を大きく左右する。最後の1球で試合がひっくり返る場合がある点も、やはりカーリングとよく似ている。

これまで何度か触れてきたとおり、パラスポーツの多くは、競技の公平性を保つために、障害の違いや程度に応じて選手のクラス分けを行なっている。ボッチャも例外ではないのだが――少々ややこしい話ではあるが――ボッチャのクラス分けには前段がある。クラス分けが二段構えになっていると言ってもいいだろう。

前段のクラス分けとは、国際脳性麻痺者スポーツ・レクリエーション協会(CPISRA)が行なっているクラス分けだ。

ボッチャに参加する選手の中心は脳性麻痺者であり、CPISRAは脳性麻痺者を最重度のクラス1から最軽度のクラス8まで、8つのクラスに分けている。そして、ボッチャの国際大会に参加できるのは、CPISRAのクラス分けにおいて最重度のクラス1と2の選手、もしくは脳性麻痺者ではないがクラス1、2と同等の重度障害を持つ選手に限られる。

そもそもボッチャとは、重度障害者のためにポルトガルで考案された競技であり、国際大会に参加できるのは基本的に重度障害者だけなのだ(日本は独自にオープンクラスを設けており、軽度の障害者も参加できる)。

では、後段のボッチャ固有のクラス分けはどうなっているかといえば、こちらは、障害の種類と程度によって4つのクラスで構成されている。日本ボッチャ協会のHPから抜粋してみよう。

BC1 脳原性疾患で車椅子操作不可。四肢・体幹に重度の麻痺がある選手および、下肢で車椅子操作が可能で足蹴りで競技する選手

BC2 脳原性疾患で車椅子操作がある程度可能な選手

BC3 脳原性疾患および非脳原性疾患で(障害の程度が)最重度の選手

BC4 非脳原性疾患(頚髄損傷や筋ジストロフィー)で、BC1、BC2と同等の重度四肢機能障害がある選手

※カッコ内は筆者による補足

脳原性疾患の多くは脳性麻痺だから、この4つのクラスの障害の軽重を比較すると次のようになる。

・脳性麻痺のなかではBC1>BC2

・非脳性麻痺のBC4≒BC1、BC2

・BC3>BC1>BC2

・BC3>BC4

最重度のBC3の場合、選手は自力で球を投げることも蹴ることもできないから、ランプ(勾配具)と呼ばれる小さな滑り台のような道具を使って球を転がす。

その際、球を転がしはじめる位置やランプの方向をアシスタントに指示することによって、自分の考えた強さで自分が考えた方向に球を転がすのだが、そこにアシスタントの意思が介入しないよう、アシスタントは試合中にコートのほうを向くことを禁じられている。

いわば、アシスタントは選手の手足に徹するわけで、重度障害者を対象としたスポーツならではのルールといっていいだろう。

さて、駿が参加するBC4だが、このクラスは前記のとおり頚髄損傷(首の骨の怪我)や筋ジストロフィーなどの非脳原性、つまり脳性麻痺ではない選手のクラスであり、駿は筋ジストロフィーの患者なのである。

筋肉が破壊されるというジレンマ >

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著者紹介

江崎駿(えさき・しゅん)

ボッチャ日本代表強化指定選手

2001 年、愛知県生まれ。あいちボッチャ協会所属。若手ながらずば抜けた強さを発揮し、2016年、強化指定選手選考会に選ばれる。2017年、BC4で「Bisfed2017ワールドオープン」バンコク大会出場。同年、日本ボッチャ選手権大会本大会で準優勝。「アジアユースパラ競技会(ドバイ)」で金メダル獲得。これからを期待される有望選手。

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