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気鋭の批評家・大澤聡が語る、「教養主義の消滅」

2018年08月06日 公開

大澤聡(批評家)

ネットの台頭と「歴史の消滅」

聞き手:編集部 写真:吉田和本

――昨今「教養ブーム」ともいわれるなか、大澤さんは本書『教養主義のリハビリテーション』(筑摩選書)で教養主義の消滅に警鐘を鳴らしています。タイトルの「リハビリテーション」にはどういった意味が込められているのでしょうか。

大澤 英語、会計、ITが「ビジネスの三種の神器」として教養視された時期がありますよね。けれど、あの手のスキルは環境の変化とともにたやすく廃れ、総入れ替えさせられてしまうもの。

ですから、「これからの時代はこのスキルが来る!」式にアップデートしてみせても、時限的にしか機能しない。むしろ、「教養とは何か」という土台となる認識を立て直すところから始めるほかないのではないか。そんな思いから、「リハビリテーション」という言葉を選んだわけです。

世界をガラガラポンで変えようとするパワフルな言葉が巷には溢れています。だけど、僕は過去の蓄積を切り捨てるのではなく、しっかり再点検しつつ、そこを再利用するかたちで教養主義を再生させたい。

――「教養主義の消滅」とは具体的にどういうことなのでしょうか。

大澤 教養主義に必須の要件として「歴史」があります。歴史を媒介にして近代的な「人間」の輪郭も形づくられてきました。ですから、「教養主義の消滅」は、とりもなおさず「歴史の消滅」であり、「人間の消滅」でもある。近代的な意味における人間の消滅ですね。

たしかに、このところ歴史ブームが再燃してはいます。けれど、ピンポイントでネタを消費するばかりで、そこには「現代との距離」を測定する回路がないようです。

それでは、雑学や豆知識をサプリ的に大量摂取することにはなっても、歴史性や主体性の再構築にはつながらないでしょう。「いま・ここ」と関連付けられていない歴史的な知識は流れ去るのも早いものです。

そして、近代は精神分析的に歴史や人間の「深層」を発見した時代です。いまはその深層が消滅しつつある。人間や現象の深層が想定されず、何でも表層的に判定していく。昨年上梓した『1990年代論』(河出ブックス)ではそんな事態を「のっぺりした世界」と表現しました。

――歴史性が衰退した背景には何があるのでしょうか。

大澤 時間性を縦軸、空間性を横軸とするなら、1990年代あたりに世界認識が、縦軸(=深層)を失って、横軸(=表層)にひたすら広がるスタイルにシフトしました。

たとえば、私たちは90年代の途中から元号でカウントすることを放棄して西暦で思考している。グローバリズムが全面化し、同時代のアメリカや中国と比較する横軸は強烈に意識する一方で、縦軸にフィードバックさせながら主体を形成するようなモードは希薄化しました。

けれど、人間はどこかで縦軸を求めてしまうもので、代わりに「ニセの縦軸」をそれぞれが好き勝手につくり出すようになってしまった。

そんな状況を加速させたのが、90年代半ばのインターネットの登場です。誰もが膨大な情報にアクセスできるようになった。が、そこで得られるのはフラットに横滑りしていく情報の群れにすぎません。つまり、情報をどれだけ掻き集めてみても、正しい縦のラインにはならない。

ウィキペディア(フリーオンライン百科事典)の構造をイメージしてみてください。個々の項目の情報は充実している。だけど、項目と項目がどういう関係にあるのかはほとんど説明されません。

ネットは手軽で便利だけれど、使う側の能力をかなり要求するんですよ。自分で文脈を用意しないといけないわけですから。そこをみんな勘違いしている。

(本稿は『Voice』2018年9月号、「著者に聞く」大澤聡氏の『教養主義のリハビリテーション』を一部抜粋、編集したものです)

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著者紹介

大澤聡(おおさわ・さとし)

批評家

1978年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。近畿大学文芸学部准教授。専門はメディア論・思想史。著書に『批評メディア論――戦前期日本の論壇と文壇』(岩波書店)、編著に『1990年代論』(河出ブックス)、『三木清教養論集』(講談社文芸文庫)など。

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