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LGBTを政争の具にする「保守」と「リベラル」

2018年09月04日 公開

村田晃嗣(同志社大学法学部教授)

写真:吉田和本

 

別の政治的目的に利用している

マイノリティーへの差別や過激な見解(コスト計算なしに現状の急激な変化を求める主張)を「保守」と呼ぶ人もいるが、大きな勘違いである。彼ら「保守派」に、保守すべき核心的な価値観があるようには思えない。

せいぜい、自分たちで定義もできない「伝統」程度のことではなかろうか。菊のご紋のステッカーを携帯電話に張り付けて、尻のポケットに入れながら、日本の「伝統」を説くような「保守派」とは何者であろうか。

彼らは保守的なのではなく、いわゆる左翼と同様に、きわめて攻撃的なのである。そして、彼らの攻撃対象は、彼らが「リベラル」と考えるものである。後述のように、それらも実際には必ずしも「リベラル」ではない。

今回の杉田論文も、朝日新聞の批判を特集する雑誌に掲載されたのである。つまり、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの略称)そのものが問題なのではなく(なぜなら、所詮まだまだマイノリティーだから)、LGBTの人権擁護を語る朝日新聞のような強大な「リベラル」勢力こそが、しばしば真の攻撃対象なのである。

他方で、LGBTの人権擁護を唱える「リベラル」勢力からも、人権と無縁と思われるような言説が飛び出してくる。

たとえば、朝日新聞が刊行している雑誌『アエラ』のオンライン限定記事は、杉田議員の人相を取り上げて、「幸せに縁がない」と記した。すぐに撤回して謝罪したものの、「リベラル派」の人権感覚の底の浅さが知れようというものである。

また、なかには、杉田発言を安倍一強の政局のせいにする者や、ナチスによるユダヤ人ホロコーストと比較して論じる者もいる。こうした議論には、よほど周到な論理的裏付けが必要である。

自己の立場の正当化のために、ホロコーストを安易に持ち出すのは、歴史に対する冒涜ですらあろう。彼らにとっても、じつはLGBTの人権擁護は口実にすぎず、政権批判が本来の目的なのではなかろうか。

かつて筆者も出演していたテレビ番組で、のちに某知事選にも立候補した有名なジャーナリストが、2008年に沖縄で起こった米軍による少女暴行事件を取り上げ、日米安保体制下での密約のせいだと論じていた。

だが、安保や基地の文脈で事件が連日報道されるなかで、「そっとしてほしい」と被害者の少女は訴えを取り下げたのである。人権を声高に語る側が人権を侵害しているかもしれないという逆説に、とくにメディアは謙虚でなければなるまい。

「保守」も「リベラル」も(少なくとも、その一部は)、別の政治的目的のためにLGBTを利用しているのだとすれば、彼らの人権は二重に侵害されていることになる。

アメリカでLGBTは政治の主体 >


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著者紹介

村田晃嗣(むらた・こうじ)

同志社大学法学部教授

1964年、兵庫県生まれ。同志社大学法学部卒業。98年、神戸大学博士(政治学)。99年、『大統領の挫折』(有斐閣、1998年)でサントリー学芸賞、2000年、『戦後日本外交史』(共著、有斐閣、1999年)で吉田茂賞を受賞。13年4月から16年3月まで同志社大学学長を歴任し、現職。著書に『レーガン』(中公新書、2011年)など。


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